・・・その挙動はいかにも軽快でそして優雅に見えた。人間の子供などはとても、自分のからだをこれだけ典雅に取り扱われようと思われない。英国あたりの貴族はどうだか知らないが。 それでいて一挙一動がいかにも子供子供しているのである。人間の子供の子供ら・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・ 連歌から俳諧への流路には幾多の複雑な曲折があったようである。優雅と滑稽、貴族的なものと平民的なものとの不規則に週期的な消長角逐があった。それが貞門談林を経て芭蕉という一つの大きな淵に合流し融合した観がある。この合流点を通った後に俳諧は・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・この家はレデーの所有にて室内の装飾の立派なるはもちろん室々はことごとく電気灯を用いよき召使を雇い高尚優雅なる生活に適するように意を用い候。宿料は一週三十三円に御座候。あるいは御気に召さぬかと存じ候えども、御出被下候えば喜こんで室々御案内可仕・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ 日本の婦人の特徴ということを国際的な文化紹介としてあげ、優雅な日本の姿を欧米に紹介するための写真外交の見本として、きょうも新聞に見えたのは、高島田に立矢の字の麗人が茶の湯の姿である。ところが、そういう画面で日本の女を紹介する習慣を・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・そして、世界文化のなかにあっても特殊に優雅である日本文化の典型として茶の湯、生花、能楽、造園、日本人形や日本服があげられる。 外国の人も日本文化の特長を手早くとりまとめようとするとき、こういう特長をとらえたことは、卑俗な日本の輸出品が、・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・原稿紙をかなぐりのけて 眼を動かす。見出そうとするように此心を、さながらに写す 言葉か、ものかを見出そうとするように。 *それは、あの人の詩はよい。優雅だ。 実に驚くべき言葉のケンラン。けれど・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・ 先生 ルネッサンス式の壮大な、単純と優雅とを調和させた大建築の前面に、厳然と立つアルマ・マターは、何と云うよき場所に置かれたのでございましょう。が、又このよき場所であるが故に、一層俗悪に見えるその黄金が、何と云う幻滅を感じさせます・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・薄みどりの優雅な花汁。 東洋趣味と鋭い西洋趣味との特殊な調和を見せている黒地総花模様の飾瓶などを眺めていると、私の胸には複雑な音楽が湧いて来た。 亢奮が、私をじっとさせて置かない。 声にならない音律に魂をとりかこまれながら、瞳を・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・忽ちあの五十層の建物が、木葉微塵にとび散ったぞ。優雅な塔が歪む。……ほら倒れる。千、万のぼろ家は、ぐっしゃり一潰れだ。堂宇も宮も、さっさと砕けろ!ミーダ 夢中になって転がり出した者共が、又そろそろ棟のずった家へ家へと這込むな。慾に駆られ・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・その、デリケートな葉が黒く浮立ち、華やかな彼方の色彩に黒レースをかけたように優雅である。 まつを、いつまでも止めて置くことは出来ないので、我々の夕飯の仕度に鰻を云いつけさせて、帰した。 急に四辺が、ひっそりとする。 自分は思わず・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
出典:青空文庫