・・・そういう見識から儲けが生まれてこなければ、大きな儲けは生まれはしない。沢本 俗物の本音を出したな。花田 俺がそんなことでもして大きな儲けをしたら俗物とでもなんとでもいうがいい。融通のきかないのをいいことにして仙人ぶってるおまえた・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・正義だの、人道だのということにはおかまいなしに一生懸命儲けなければならぬ。国のためなんて考える暇があるものか!」 かの早くから我々の間に竄入している哲学的虚無主義のごときも、またこの愛国心の一歩だけ進歩したものであることはいうまでもない・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ 舌打の高慢さ、「おらも乗って行きゃ小遣が貰えたに、号外を遣って儲け損なった。お浜ッ児に何にも玩弄物が買えねえな。」 と出額をがッくり、爪尖に蠣殻を突ッかけて、赤蜻蛉の散ったあとへ、ぼたぼたと溢れて映る、烏の影へ足礫。「何を・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・いやどこも不景気で、大したほまちにはならないそうだけれど、差引一ぱいに行けば、家族が、一夏避暑をする儲けがある。梅水は富士の裾野――御殿場へ出張した。 そこへ、お誓が手伝いに出向いたと聞いて、がっかりして、峰は白雪、麓は霞だろう、とその・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ええ、それをですわ、――世間、いなずま目が光る―― ――恥を知らぬか、恥じないか――と皆でわあわあ、さも初路さんが、そんな姿絵を、紅い毛、碧い目にまで、露呈に見せて、お宝を儲けたように、唱い立てられて見た日には、内気な、優し・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・随って商売上武家と交渉するには多才多芸な椿岳の斡旋を必要としたので、八面玲瓏の椿岳の才機は伊藤を助けて算盤玉以上に伊藤を儲けさしたのである。 伊藤八兵衛の成功は幕末に頂巓に達し、江戸一の大富限者として第一に指を折られた。元治年中、水戸の・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・写真屋の資本の要らない話、資本も労力も余り要らない割合には楽に儲けられる話、技術が極めて簡単だから女にでも、少し器用なら容易に覚えられる話、写真屋も商売となると技術よりは客扱いが肝腎だから、女の方がかえって愛嬌があって客受けがイイという話、・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ 金儲けだときかされると、途端におかね婆さんは歯ぐきを出して、にこにこし、つまりは何の造作もなく説き伏せられてしまった。 だが、さて、どんな風に実行に移したものかという段になると、丹造にはからきし智慧もなく、あくまで相棒が要った。い・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ 年の暮の一儲けをたくらんで簡単に狸算用になってしまったかと聴けば、さすがに気の毒だったが、しかし老訓導は急に早口の声を弾ませて、「――しかし行ってみるもんでがすな、つまりその、金巾は駄目でがしたが、別口の耳寄りな話ががしてな、光が・・・ 織田作之助 「世相」
・・・うのはいわば臨時雇で宴会や婚礼に出張する有芸仲居のことで、芸者の花代よりは随分安上りだから、けちくさい宴会からの需要が多く、おきんは芸者上りのヤトナ数人と連絡をとり、派出させて仲介の分をはねると相当な儲けになり、今では電話の一本も引いていた・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
出典:青空文庫