・・・く若崎の細君の云う通りになってくれたのでもあろうが、一つには平常同じような身分の出というところからごくごく両家が心安くし合い、また一つには若崎が多くは常に中村の原型によってこれを鋳ることをする芸術上の兄弟分のような関係から、自然と離れ難き仲・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・もっとも一つは年を取って神経が鈍くなったせいもあるかもしれないが、一つには自分が昔おどかされた雷の兄弟分と友達になって毎日のように一緒に遊ぶことになったためと思われる。こうして雷鳴に対する神秘的の恐ろしさがなくなりはしたが、たぶんその恐ろし・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・菓子折を注文して、それを長屋の軒別に配った。兄弟分が御世話になりますからとの口上を述べに何某が鹿爪らしい顔で長屋を廻ったりした。すると長屋一同から返礼に、大皿に寿司を遣した。唐紙を買って来て寄せ書きをやる。阿久の三味線で何某が落人を語り、阿・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
出典:青空文庫