・・・それを歴史の背景の前に描こうとする時、主観の中にとじこもり、或は一般的に暖いもの、妥協的なもの、話し合いで分るものという先入観で感じられている人情のほの明りの中に溺れては、その中での歌はうたえても、現実を力強く彫り上げることは不可能であろう・・・ 宮本百合子 「パァル・バックの作風その他」
・・・の場合、作品の世界の中で関係しあっている人物たちが、我知らずその精神、生活態度のうちにもち運んで来ている小市民的な先入観、世俗性のもつれであった。「妻の座」は、この作家について論じるとき無視することのできない特殊な一作となった。 かつて・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・しかし、生きている生活の姿は、一つの先入観となっている目的を達するために歪められて、あるままの条件、そのうちにこそ国民の多数が生きているその条件を、無視してしまっている。そのような悲しき滑稽というべき婦人の非論理性はどこから忍びこむかといえ・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・という問題に対して、わたしたちは新しい真実の解答を見いだし、民主主義文学理論が創作の溢れだす力を阻むというような誤った先入観をうち破らなければいけない。作品を書こうとするものを、また旧い小説のかんやこつに追いこんではならない。そういうまちが・・・ 宮本百合子 「両輪」
出典:青空文庫