・・・ 彼の、先天的に鋭い理智と、感情とは、小僧っ子の事で一杯になっていた。 四十年間、絶えず彼を殴りつづけて来た官憲に対する復讐の方法は、彼には唯一つしかないと信じていた。そして、その唯一つの道を勇敢に突進した彼であった。 その戦術・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・彼女は先天的な精神力によって階級のコムベンションを打破し、家族制度や過去の道徳に反抗している。彼女は自分一人の自由は或る程度まで完うし得た。然し、彼女はこれからどのように発展し、明日の女性に向ってどんな予言を与えるか? 次の時代に役立つどん・・・ 宮本百合子 「アンネット」
・・・彼女がよしそれに驚いたにしても 彼女の彼に対する無限な愛と、彼女自身の中の『先天的罪』とは快く其を宥すのだ。そしてそれが又彼女を暗黒的に喜ばすのだ。」 此は、人が快感を以て行なう寛裕と云う態度の中の、或点を考えさせるものではあるまい・・・ 宮本百合子 「黄銅時代の為」
・・・ 私は、実の自己と云うものは、一個の肉体に宿る多くの意志、感情、智の中で、生れ出た時既に宇宙の宏大無辺の精力の中から分けられた精力が、その三つの中のいずれかに宿って居る時に、その先天的にある精力を自己と云いたい。 そう云えば、世の人・・・ 宮本百合子 「大いなるもの」
・・・更に彼はこれらの先天的に犯罪型の頭蓋をもって生れ、何か犯罪をやって現に拘禁されている者の両親は、大抵揃っていず女親だけで、その女親も売笑婦が高率を占め、又その女たちはアルコール中毒にかかっているか、さもなければひどい酒呑みが多いと結論してい・・・ 宮本百合子 「花のたより」
出典:青空文庫