・・・ 嫌いな私が先棒で、二三本あったカルピスが皆空になった。「ねえ一寸、もうなくてよ」「困ったな、食い辛棒にまた一つ欲しいものが殖えられては困ったなあ」「いいことがある! さああなた縁側まで出ていらっしゃい。よくて、私は庭に降り・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・時代は投票の純潔さを益々必要とするのに、実際は、公機であるべき新聞が先棒でその逆が勝利を占めることを実地教訓する。――これは一つの苦々しき滑稽だ。新聞が、いかに理想低き一営業に過ぎないかを表白している。この精神的影響の上に数万円のハガキ代と・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・ たまにおとなしく台所にかたまっていると思うと、この大人達は自分が先棒になって、半分盲目になっている染物職人のグレゴリーの指貫をやいて置いて哀れな職人が火傷するのを見て悦ぶ有様である。子供らは、家にいれば大人の喧嘩にまきこまれ、往来での・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・そういう深刻な戦争の先棒をかつぐ決心をしている日本の帝国主義にとって、日本プロレタリア文化連盟は邪魔でしょう。 ラジオ、映画、芝居、新聞雑誌などを総動員して戦争熱を煽っているなかで、われらの日本プロレタリア文化連盟こそ、数百万の勤労大衆・・・ 宮本百合子 「ますます確りやりましょう」
・・・さもなければ、こういう伯父たちが先棒になって、半分盲目になった染物職人の指貫きをやいておいて火傷をさせて悦ぶような残酷で卑劣なわるさを企らむ。あらゆる悪態、罵声、悪意が渦巻くような苦しい毎日なのであるが、その裡でゴーリキイを更に立腹させたの・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
出典:青空文庫