・・・その前日、新宿の百貨店へ行って結納のおきまりの品々一式を買い求め、帰りに本屋へ立寄って礼法全書を覗いて、結納の礼式、口上などを調べて、さて、当日は袴をはき、紋附羽織と白足袋は風呂敷に包んで持って家を出た。小坂家の玄関に於いて颯っと羽織を着換・・・ 太宰治 「佳日」
・・・記憶がよくて旧約全書の聖歌を暗誦したりした。環境には何ら科学的の刺戟はなかったが、塩水に卵の浮く話を聞いて喜んで実験したり、機関車二台つけた汽車を見てその効能を考えたりした。伯母に貰った本で火薬の製法を知り、薬屋でその材料を求めて製造にかか・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・だから旧約全書の神様や希臘の神様はみんな声とか形とかあるいはその他の感覚的な力を有しています。それだから吾人文芸家の理想は感覚的なる或物を通じて一種の情をあらわすと云うても宜しかろうと存じます。そこで問題は二つになります。一は感覚的なものと・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ ニイチェのショーペンハウエルに対する関係は、新約全書の旧約全書に対するやうなものである。だれも知る通り、旧約の神エホバは怒と復讐の神であり、新約の神は愛と平和の神である。この二つの神は正反対の矛盾として対蹠して居る。しかも新約は旧・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・ 同じ歴史全書の日本原始文化史があり、日本近代史があり、明治の新社会の生成過程を語っている。この小さい日本近代史を中心として、私たちは巻末にあげられている参考文献表の中から、「明治維新」や「新日本史」などを選び出して読むことが出来るし、・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・ 三笠書房で出版されている唯物論全書の仕事も、今日の我々の周囲をとりかこむ社会の色調との対照に於て、深く評価されなければならず、同時に社会の底潮の頼もしさをも感じさせる。 新島繁氏がこの全書の一冊として著わされた「社会運動思想史」は・・・ 宮本百合子 「新島繁著『社会運動思想史』書評」
・・・執筆者がそれぞれの専門家であり、一般の読者を考えて書かれているから、日本における家族、家庭のありようを眺め、理解するために有益な全書である。たとえば第一巻婚姻の史論篇の内容は、婚姻史概説。自然法的婚姻及び離婚論。日本結婚風俗史。一夫一婦論。・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
出典:青空文庫