・・・ 三日後、十一月十七日、日本軍は、全線に亘って、いっせいに前進を開始した。 彼等の属している中隊も前進した。そしてまもなく、前哨線の小屋のあるところに到達した。中隊長は、前哨に送った部下の偵察隊が、××の歩哨と、馴れ/\しく話し合い・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・敵軍潰乱全線に総退却。 Kは号外をちらと見て、「あなたは?」「丙種。」「私は甲種なのね。」Kは、びっくりする程、大きい声で、笑い出した。「私は、山を見ていたのじゃなくってよ。ほら、この、眼のまえの雨だれの形を見ていたの。みん・・・ 太宰治 「秋風記」
・・・ ソビエト映画「全線」というのを見た。これも肝心な所が省略されているそうであるが、それでもおもしろくなくはない。牛乳びんがいっせいに充填されて行くところだとか、耕作機械の大分列式だとか、これらは子供にもおとなにも、赤にも白にも、無条件に・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・少なくも争議開始後二三日は全線いったいに乗客が少ないではないかと思われた。これは市民の出足がなんとない不安のためにいくぶん止められたためかと想像された。しかしまた、乗り換え切符を出さなくなったために乗客の選ぶコースが平常と変わり、その結果と・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・解放運動の全線にわたって、アナーキズムとコンムニズムとの区別が明確にされていない時代であった。プロレタリアートが、歴史の推進力となる階級であることは主張されていたが、進歩的な小市民・インテリゲンツィアが革命の道ゆきにどのような位置と使命とを・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・それは文化活動をふくむプロレタリア解放運動の全線で、わたしらが一歩でも正しいわたし達の主張を守ろうと思うなら、そのためにすべきことは敵の暴圧に対する精力的で科学的な逆襲があるばかりであるということです。 私は宮本顕治と結婚して一ヵ月半ば・・・ 宮本百合子 「逆襲をもって私は戦います」
・・・コムソモールは生産部門の全線に自分たちを動員して、党外勤労者と集団的結束をかためた。然し勤労者の中には「十月」以後ソヴェト同盟で生産は生産のために行われているという羨むべき事実を理解しない「棒杭奴」もある。資本主義生産に奴隷として使われた時・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 市電では、一月に広尾の罷業を東交の篠田、山下等に売られてから全線納まらず「非常時」政策に抗して動揺しているのであった。 果して、昼ごろ髪をきっちり分けた車掌服の若い男が二人入って来た。一人が看守に住所姓名を云っている間に、他の一人・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・何しろ早稲田の全線座というので、特等三十五銭で見るのだから、少し気のきいたところはすっかり廻っての果です。スウェーデンの若い女王クリスチナがスペインから王の求婚使節になって来たある公爵だかと、計らず雪の狩猟の山小舎で落ち合い、クリスチナが男・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ソヴェトの生産振興の為の五ヵ年計画は一一〇パーセントの全生産拡張プランとともに生活全線を社会主義再建設に向って勇敢にねじ向けてしまった。―― が、そのことは又別に話すとして、地図にかえろう。我々はモスクワ市の環状ブルワールを見つけたい。・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
出典:青空文庫