・・・などとそれが親の言う言葉かと、蝶子は興奮の余り口喧嘩までし、その足で新世界の八卦見のところへ行った。「あんたが男はんのためにつくすその心が仇になる。大体この星の人は……」年を聞いて丙午だと知ると、八卦見はもう立板に水を流すお喋りで、何もかも・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・その奥さんというのが病気だから、その日その日に追われて、昼間は温泉場の飲食店をまわって空壜を買い集め、夜は八卦見に出ているのだと言った。「うちへも集めに来なさるわ」 おかしいことに、半年に一度か二度珈琲を飲んで行くが、そのたび必ずこ・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・ 老人は私の顔を天眼鏡で覗いて見たり、筮竹をがちゃがちゃいわして見たり、まるで人相見と八卦見と一しょにやっていましたが、やがてのことに、『イヤ御心配なさるな、この児さんは末はきっと出世なさるる、よほどよい人相だ。けれど一つの難がある・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・どうやら『先生』と言われるようになったのが、そんなに嬉しいのかね。八卦見だって、先生と言われています。どうやら、世の中から名士の扱いを受けて、映画の試写やら相撲の招待をもらうのが、そんなに嬉しいのかね。此頃すこしはお金がはいるようになったそ・・・ 太宰治 「或る忠告」
出典:青空文庫