・・・いや、信じているようにさえ公言したこともあったのです。しかしとうとう晩年には悲壮なつきだったことに堪えられないようになりました。この聖徒も時々書斎の梁に恐怖を感じたのは有名です。けれども聖徒の数にはいっているくらいですから、もちろん自殺した・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・のみならず僕の作品の不道徳であることを公言していた。僕はいつも冷やかにこう云う彼を見おろしたまま、一度も打ちとけて話したことはなかった。しかし姉と話しているうちにだんだん彼も僕のように地獄に堕ちていたことを悟り出した。彼は現に寝台車の中に幽・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・フランツ・フォン・バアデルが Dr. Werner に与えました手紙によりますと、エッカルツハウズンは、死ぬ少し前に、自分は他の人間の二重人格を現す能力を持っていると、公言したそうでございます。して見ますれば、第二の疑問は、第一の疑問と同じ・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・愚作であると公言しても坪内君は決して腹を立てまい。私が今いうと生意気らしいが、私は児供の時からヘタヤタラに小説を読んでいた。西洋の小説もその頃リットンの『ユーゼニ・アラム』を判分教師に教わり教わりながらであるが読んでいた。であるから貸本屋の・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・ 自分如きも文芸家となったけれども、学窓にあったときには最も深い倫理学者になることを理想とし、当時倫理学が知識青年からかえり見られなかった頃に、それを公言し、ほこりともしていた。 文芸を愛好する故に倫理学を軽視するという知識青年の風・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・生れて、いまだ一度も嘘言というものをついたことがないと、躊躇せず公言している。それは、どうかと思われるけれど、しかし、剛直、潔白の一面は、たしかに具有していた。学校の成績は、あまりよくなかった。卒業後は、どこへも勤めず、固く一家を守っている・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・あなたのお言葉、わすれていませぬ。公言ゆるせ。萱野さん、あなたは私の兄に恋していました。 先夜、あの新聞の記事読んで、あなたの淋しさ思って三時間ほど、ひとりで蚊帳の中で泣いたものだ。一策なし、一計なし、純粋に、君のくるしみに、涙ながした・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・生れて、いまだ一度も嘘言というものをついた事が無いと、躊躇せず公言している。それは、どうかと思われるけれど、しかし、剛直、潔白の一面は、たしかに具有していた。学校の成績はあまりよくなかった。卒業後は、どこへも勤めず、固く一家を守っている。イ・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・というような意味の事を公言したと伝えられている。そしてこの言葉もまた人さまざまにいろいろに解釈されもてはやされている。 しかしこの「理解」という文字の意味がはっきりしない以上は「理解しにくい」という言詞の意味もきわめて漠然としたものであ・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・その時分に、今でもそうだけれども、思い切って妻帯し肉食をするということを公言するのみならず、断行して御覧なさい。どの位迫害を受けるか分らない。尤も迫害などを恐れるようではそんな事は出来ないでしょう。そんな小さい事を心配するようでは、こんな事・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
出典:青空文庫