・・・相矛盾せる両傾向の不思議なる五年間の共棲を我々に理解させるために、そこに論者が自分勝手に一つの動機を捏造していることである。すなわち、その共棲がまったく両者共通の怨敵たるオオソリテイ――国家というものに対抗するために政略的に行われた結婚であ・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・これは他人の内生を共生すること、すなわち同情である。利他主義はこの同情という心理的事実にもとづくものである。人はいやしくも他人の願望を知れば、その実現を妨ぐる事情なき限り、自分の願望と等しく、この他人の願望によって規定されずにいられない自然・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・共同体の基本は父母であり、氏族であり、血と土地と言語と風習と防敵とを共同にするところの、具体的単位がすなわちくになのである。共生ということの意味を生活体験的に考えるならば、必ず父母を基として、国土に及ばねばならぬ。そしてわれわれに文化伝統を・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・そしてそのような他人の労作の背後には人間共存の意識が横たわっているのであり、著者たちはその共生の意識から書を共存者へと贈ったものである。 したがって、書を読むとはかような共存感からの他人の贈る物を受けることを意味する。 人間共存のシ・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・どうしてこの洋品部が丸善に寄生あるいは共生しているかという疑問を出した時にP君はこんな事を言った。「書物は精神の外套であり、ネクタイでありブラシであり歯みがきではないか、ある人には猿股でありステッキではないか。」こう言われてみればそうである・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・ 或る女性が、彼女の十年来共棲して来た良人を棄てて、新たに甦った人生を送るために愛人の許に馳った。斯様な一事実に面した時、我々は、彼女が、自己の人としての運命、性格、力量を、どこまで深く沈思したか。無意識の裡に外界から暗示され、刺戟され・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
出典:青空文庫