・・・私の世界的世界形成と云うのは、各国家各民族がそれぞれの歴史的地盤に於て何処までも世界史的使命を果すことによって、即ちそれぞれの歴史的生命に生きることによって、世界が具体的に一となるのである、即ち世界的世界となるのである。世界が具体的に一とな・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・しかし単なる科学の世界は、自己自身によってあり自己自身を限定する真実在の世界ではない、真の具体的実在の世界ではない。最初にいった如く、カントはこの問題を打切ったに過ぎない。実践といっても、そこからでは形式的規範が考えられるだけである。カント・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・そうじゃなくて、自分の頭に、当時の日本の青年男女の傾向をぼんやりと抽象的に有っていて、それを具体化して行くには、どういう風の形を取ったらよかろうか。といろいろ工夫をする場合に、誰か余所で会った人とか、自分の予て知ってる者とかの中で、稍々自分・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・一言すれば、それは色々の人が人生に対する態度だな……人間そのものではなくて、人間が人生に対する態度……というと何だか言葉を弄するような嫌いがあるが、つまり具体的の一箇の人じゃなくて、ある一種の人が人生に対する態度だ、而してその一種の人とは即・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・ そこには『白樺』がもたらした人間への愛の精神が具体的にどう消長したかも語られていて、さまざまの感想を私たちに抱かせると思う。〔一九四一年三月〕 宮本百合子 「「愛と死」」
・・・けれども、あの日台所で燻い竈の前にかがみ、インフレーションの苦しい家事をやりくって、石鹸のない洗濯物をしていた主婦のためには、新憲法のその精神がはっきり具体化されたような変化はなかった。今日は男も女も、それが地みちの生活をしている人であるな・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・しかしも一つ具体的に話したい事がある。それはこうなのだ。下女がある晩、お休なさいと云って、隣の間へ引き下がってから、宮沢が寐られないでいると、壁を隔てて下女が溜息をしては寝返りをするのが聞える。暫く聞いていると、その溜息が段々大きくなって、・・・ 森鴎外 「独身」
・・・闇が具体的になって来るような心持になる。そこで慌ただしげにマッチを一本摩った。そして自分の周囲に広い黒い空虚のあるのを見てほっと溜息を衝いた。その明りが消えると、また気になるので、またマッチを摩る。そして空虚を見ては気を安めるのである。・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・しかも描写が具体的で事実に迫っている点では、ゾラははるかにかなわない。ゾラには強く作為の匂いがする。そして心理が浅くかつ足りない。その上かなり冗漫である。ストリンドベルヒはこれに反して社会の断層を描くのに自伝的の匂いをもって貫ぬいている。心・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・ もっと具体的に言えば、氏はその幾分浪漫的な感情を満足させるような景色でなければ描く気にならないのではないか。 もとより自分は、対象の写実が正路であって自己情緒の表現が邪路であると言い切るのではない。いずれもともに正しい道であろう。・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫