・・・ごとく点字に写し取った中から、あらゆる思想や、警句や、特徴や、挿話を書き抜き、分類し、整理した後に、さらにこの著者が読んだだろうと思われるあらゆる書物を読んだり読んでもらったりして、その中に見出される典拠や類型を拾い出すというのである。この・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・事柄の内容のみならずその文章の字句までも、古典や雑書にその典拠を求むれば一行一行に枚挙に暇がないであろうと思われる。 勿論、馬琴自身のオリジナルな観察も少なくはないであろうが、全体として見るときは彼の著書には強烈な「書庫の匂い」がある。・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ これはただ何の典拠のない私だけの臆測である。しかしそれはいずれにしても、今の苛立たしい世の中を今少し落着けて、人の心を今少し純な集中に導くためには、このような音楽も存外有効ではないだろうか。 こんな事を考えるともなく考えながら、私・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そうして、人間の性情の型を判断する場合にこの方がむしろ手相判断などよりも、もっと遥かに科学的な典拠資料になりはしないかと想像される。 少なくも、真黒な指の痕をつけている人は、名札の汚れなどという事には全然無関心な人であるというくらいのこ・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・しかしこの話は子供のころから父にたびたび聞かされただけで典拠については何も知らない。ただこういう話が土佐の民間に伝わっていたことだけはたしかである。 野中兼山は椋鳥が害虫駆除に有効な益鳥であることを知っていて、これを保護しようと思ったが・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
出典:青空文庫