・・・絣の綿入羽織を長く着て、霜降のめりやすを太く着込んだ巌丈な腕を、客商売とて袖口へ引込めた、その手に一条の竹の鞭を取って、バタバタと叩いて、三州は岡崎、備後は尾ノ道、肥後は熊本の刻煙草を指示す……「内務省は煙草専売局、印紙御貼用済。味は至・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・「ヤア大津、帰省ったか」「ともかく法学士に成りました」「それが何だ、エ?」「内務省に出る事に決定りました、江藤さんのお世話で」「フンそうか、それで目出度いというのか。然し江藤さんとは全体誰の事じゃ」「江藤侯のことで…・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・そこへ内務省と大きく白ペンキでマークしたトラックが一台道を塞いで止まってその上に一杯に積んだ岩塊を三、四人の人夫が下ろしていた。それがすむまでわれわれの車は待たなければならないので車から下りて煙草を吸いつけながらその辺に転がっている岩塊を検・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・ もしも自分の以上の空想が多少でもほんとうに近いとすると、若い青年男女に対する映画の生理的効果を研究するのは将来内務省か文部省かのどこかの局ないしは課で取り扱うべきだいじな仕事の一つになるかもしれないのである。・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
・・・文部省も内務省もこの点は意を安んじてもいいであろうと思われた。こういう絵を見ては誰でも資本主義を謳歌したくなる。 安井氏の「風吹く湖畔」を見ると日本の夏に特有な妙に仇白く空虚なしかし強烈な白光を想い出させられるが、しかしそういう点ではむ・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・新聞記事は例によってまちまちであって、感傷をそそる情的資料は豊富でも考察に必要な正確な物的資料は乏しいのであるが、内務省警保局発表と称する新聞記事によると発火地点や時刻や延焼区域のきわめてだいたいの状況を知ることはできるようである。まず何よ・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・福見や河野が洋行する話や、桜井が内務省の参事官で幅を利かせているような話が出ると竹村君は気の乗らぬ返辞をしてふっと話題を転ずるのであった。 今日も夕刻から神楽坂へ廻って、紙屋の店で暮の街の往来を眺めていた。店の出入りは忙しそうであったが・・・ 寺田寅彦 「まじょりか皿」
・・・国粋保存の気運の向いて来たらしい今の機会に、内務省だか文部省だか、どこか適当な政府の機関でそういうアルキーヴスを作ってはどうであろうか。ついそんな空想も思い浮かべられるのである。 寺田寅彦 「物売りの声」
・・・新比翼塚は明治十二、三年のころ品川楼で情死をした遊女盛糸と内務省の小吏谷豊栄二人の追善に建てられたのである。(因にいう。竜泉寺町 日本堤を行き尽して浄閑寺に至るあたりの風景は、三、四十年後の今日、これを追想すると、恍として前世を悟る思い・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・先生は最初感情の動くがままに小説を書いて出版するや否や、忽ち内務省からは風俗壊乱、発売禁止、本屋からは損害賠償の手詰の談判、さて文壇からは引続き歓楽に哀傷に、放蕩に追憶と、身に引受けた看板の瑕に等しき悪名が、今はもっけの幸に、高等遊民不良少・・・ 永井荷風 「妾宅」
出典:青空文庫