・・・阿久はもと下谷の芸者で、廃めてから私の世話になって二年の後、型ばかりの式を行って内縁の妻となったのである。右隣りが電話のボタンを拵える職人、左隣がブリキ職。ブリキ職の女房は亭主の稼ぎが薄いので、煙突掃除だの、エンヤラコに出たりする。それで五・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
・・・モーパサンの小説に、或男が内縁の妻に厭気がさしたところから、置手紙か何かして、妻を置き去りにしたまま友人の家へ行って隠れていたという話があります。すると女の方では大変怒ってとうとう男の所在を捜し当てて怒鳴り込みましたので男は手切金を出して手・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ 内縁関係、未亡人の生きかたに絡む様々の苦しい絆は、経済上の性質をもっているにしろ、その根に、精神の軛として、封建的な家族制度がのしかかっている。今度の第二次世界戦争で、日本の軍事的権力は百四万以上の生命を犠牲とした。家庭は、既に強権に・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・フランスにおける内縁問題。結婚優生学。これらの各項をそれぞれの専門家が執筆している。第二巻法律篇は、婚姻法概論からはじまって、妻の無能力。内縁。国際婚姻法。最後に民法改正要綱解説として、穂積重遠博士が序言及び婚姻を執筆していられる。この民法・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・についての不平等な規定、第八百八十六条から第八百八十七条に至る親権において母の権利の制限されていること、第九百七十条その他相続或は遺産に対する婦人の差別的な規定、或は結婚届の規定の中にある婦人に不利な内縁関係の規定など、今日婦人の社会的不便・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・それは学校教員・警察官その他待遇職員の未亡人たちが遺族扶助料をもらいながら再婚し、しかも扶助料をとりあげられぬため、内縁関係にしているのがおびただしい数にのぼるので、東京府の恩給掛はこの際徹底的に調べて、内縁でも再婚している未亡人の扶助料は・・・ 宮本百合子 「私の感想」
出典:青空文庫