・・・と大いに僕を冷笑した。僕は「常談云っちゃいけない。僕をして過たしめたものは実は君の諳誦なんだからな」とやっと冷笑を投げ返した。と云うのは蛇笏を褒めた時に、博覧強記なる赤木桁平もどう云う頭の狂いだったか、「芋の露連山影を正うす」と云う句を「連・・・ 芥川竜之介 「飯田蛇笏」
・・・に多少の冷笑を加えたかった。が、勿論何も言わずに彼の話の先を待っていた。「すると電車の中で知り合になった大学生のことが書いてあるんだよ。」「それで?」「それで僕は美代ちゃんに忠告しようかと思っているんだがね。……」 僕はとう・・・ 芥川竜之介 「彼」
・・・しからずんば不謹慎な冷笑であった。ただそれら現代語の詩に不満足な人たちに通じて、有力な反対の理由としたものが一つある。それは口語詩の内容が貧弱であるということであった。 しかしその事はもはやかれこれいうべき時期を過ぎた。 ~~・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・と、義延という男はそんな男と男が違う。なんでも思い込んだらどうしても忘れることのできない質で、やっぱりおまえと同一ように、自殺でもしたいというふうだ。ここでおもしろいて、はははははは」と冷笑えり。 女は声をふるわして、「そんなら伯父・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・それじゃ五百でも六百でも刈ってくれと姉が冷笑する。おはまはまた省さんが五百刈ればわたしだって五百刈るという。おはまはなんでもかでも今日は省さんを負かして何か買ってもらうんだという。「おれがおはまに負けたら何でも買ってやるけれど、お前がお・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・ いやなことを言われて深田の家を出る時は、なんのという気で大手を振って帰ってきた省作も、家に来てみると、家の人たちからはお前がよくないとばかり言われ、世間では意外に自分を冷笑し、自分がよくないから深田を追い出されたように噂をする。いつの・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・菊子の病気を冷笑する心は、やがてまた僕の妻のそれを嘲弄する心になった。僕の胸があまり荒んでいて、――僕自身もあんまり疲れているので、――単純な精神上のまよわしや、たわいもない言語上のよろこばせやで満足が出来ない。――同情などは薬にしたくも根・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・緑雨の耽溺方面の消息は余り知らぬから、あるいはその頃から案外コソコソ遊んでいたかも知れないが、左に右く表面は頗る真面目で、目に立つような遊びは一切慎しみ、若い人たちのタワイもない遊びぶりを鼻頭で冷笑っていた。或る楼へ遊びに行ったら、正太夫と・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・独り他人を軽侮し冷笑するのみならず、この東洋文人を一串する通弊に自ずから襯染していた自家の文学的態度をも危ぶみかつ飽足らず思うて而して「文学には必ず遊戯的分子がある、文学ではドウシテモ死身になれない」という。近代思想を十分理解しながら近代人・・・ 内田魯庵 「二葉亭四迷」
・・・と、人々は口々にいって冷笑いました。 すると髪の毛の伸びた、顔色の黒い、目の落ちくぼんだ子供は、じろじろとみんなの顔を見まわしました。「私は、けっして、うそをつきません。山にいて、いろいろほかの人間のできないことを修業しました。ほん・・・ 小川未明 「あほう鳥の鳴く日」
出典:青空文庫