・・・ そんなことを、凡庸であった教授ぶりへの感想をもこめて囁きあっている連中がある。形式ばった茶話会がくずれてから、多喜子はヴェランダのところで煙草をすっている桃子のそばへよって行った。「お嫂さん、小包で送ったりして、何とか云ってらっし・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・訳者も云っておられるようにヴォドピヤーノフという人が、凡庸の才でないと云うのは確であろう。だが文化のこととして、こういう科学と文学との健全に綜合された才能の発育の可能がどこからこの貧農の子に与えられたのだろうかと考えると、そこには文化上やは・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
・・・二流、三流の通俗画家が、凡庸な構図とあり来りな解釈とで、神話の男神、アポロー、パンまたは、キリスト教の聖徒などを描いた他、或る女流画家の特殊な稟性によって、ユニクな属性を賦与された男子の肖像が在るだろうか。私は自分の狭い知識では不幸にして一・・・ 宮本百合子 「わからないこと」
・・・ けれども私は、同じく自分の凡庸を意識していても、それをごまかそうとかかっている人に同情する事はできません。彼らは何らかの点で自分を是認し安心しようとするのです。私はこういう人の前に出ると、ひどい腐敗の臭気を感じます。そうして、悲しむべ・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫