・・・同様に手むかいをする百姓のだと思って、故意に厳重に処置をした。 四 二週間ほどたって、或る日、健二が残飯桶をかついで丘の坂路を登っていると、彼の足音を聞きつけて、封印を附けられた宇一の小屋から二十匹ばかりが急に揃って・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・小坂氏の夫人は既に御他界の様子で、何もかも小坂氏おひとりで処置なさっているらしかった。 私は足袋のために、もうへとへとであった。それでも、持参の結納の品々を白木の台に載せて差し出し、「このたびは、まことに、――」と礼法全書で習いおぼ・・・ 太宰治 「佳日」
・・・つまり、けさ私がお葉書をいただいて、その葉書の処置に窮して、うろうろしたのは、自分の身の程を知らされて狼狽していただけの事でありました。少しは私にも、作家としての誇りもあったのでしょう、その誇りのやり場に窮して、うろうろあのお葉書を持ち廻っ・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・これは、よそからいただいたもので、私は、その処置について思案していた矢先に、Y君から、十一月二日夜A君と二人で遊びに行く、というハガキをもらったので、よし、この機会にW君にも来ていただいて、四人でこの二升の処置をつけてしまおう、どうも家の内・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・彼はその当時、従来の人糞の処置には可成まいっていた。 新宿の歩道の上で、こぶしほどの石塊がのろのろ這って歩いているのを見たのだ。石が這って歩いているな。ただそう思うていた。しかし、その石塊は彼のまえを歩いている薄汚い子供が、糸で結んで引・・・ 太宰治 「葉」
・・・ 昔の日本人は前後左右に気を配る以外にはわずかにとんびに油揚をさらわれない用心だけしていればよかったが、昭和七年の東京市民は米露の爆撃機に襲われたときにいかなる処置をとるべきかを真剣に講究しなければならないことになってしまった。襲撃者は・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・ 昔の日本人は前後左右に気を配る以外にはわずかに鳶に油揚を攫われない用心だけしていればよかったが、昭和七年の東京市民は米露の爆撃機に襲われたときに如何なる処置をとるべきかを真剣に講究しなければならないことになってしまった。襲撃者は鳶以上・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・そうした夜は夜ふけるまでその話を分析したり総合したりして、最後に、その先輩と自分との境遇の相違という立場から、二人のめいめいの病気に対する処置をいずれも至当なものとして弁明しうるまで安眠しない事もあった。またたとえばある日たずねて来た二人が・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・ギューと云わしてやらんものをと乗らぬ先から当人はしきりに乗り気になる、然るにハンドルなるもの神経過敏にてこちらへ引けば股にぶつかり、向へ押しやると往来の真中へ馳け出そうとする、乗らぬ内からかくのごとく処置に窮するところをもって見れば乗った後・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・自分は出口を塞いだ左の手の処置に窮した。人の隙を窺って逃げるような鳥とも見えないので、何となく気の毒になった。三重吉は悪い事を教えた。 大きな手をそろそろ籠の中へ入れた。すると文鳥は急に羽搏を始めた。細く削った竹の目から暖かいむく毛が、・・・ 夏目漱石 「文鳥」
出典:青空文庫