・・・そして、その生においても、死においても、自己の分相応の善良な感化・影響を社会にあたえておきたいものだと思う。これは、大小の差こそあれ、その人びとの心がけ次第で、けっしてなしがたいことではないのである。 不幸、短命にして病死しても、正岡子・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・其他の不自然の死を甘受するの外はなく、また甘受するのが良いではない歟、唯だ吾等は如何なる時、如何なる死でもあれ、自己が満足を感じ、幸福を感じて死にたいものと思う、而して其生に於ても、死に於ても、自己の分相応の善良な感化・影響を社会に与えて置・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・ いちばん高級な読書の仕方は、鴎外でもジッドでも尾崎一雄でも、素直に読んで、そうして分相応にたのしみ、読み終えたら涼しげに古本屋へ持って行き、こんどは涙香の死美人と交換して来て、また、心ときめかせて読みふける。何を読むかは、読者の権利で・・・ 太宰治 「一歩前進二歩退却」
・・・誰を恨もう、すべては、おのれひとりの罪、この小説書きながらも、つくづくと生き、もて行くことのもの憂く、まったくもって、笹の葉の霜、いまは、せめて佳品の二、三も創りお世話になったやさしき人たちへの、わが分相応のささやかなお礼奉公、これぞ、かの・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・のシャカイシュギになっている倅は、いわば不具者で、それこそ分相応というものであった。ところが、同じ荷馬車稼業をしている勘さんの娘というのは、ちかごろ女中奉公さきからもどっていて、三吉は知っているが、これはおよそくつじょくであった。だいいちに・・・ 徳永直 「白い道」
出典:青空文庫