・・・彼の郷国も、罪名も、刑期も書いてはなかったが、しかしとにかく十九の年からもう七年もいて、まだいつごろ出られるとも書いてないところから考えても、容易ならぬ犯罪だったことだけは推測される。――とにかく彼は自分の「蠢くもの」を読んでいるのだ。・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
・・・今度はどの位だな、と思っていると、大抵刑期はそれより一年とは違わなかった。――一年の人間の生活は短くない。だが、無頼漢共を量る時には、一年の概念的な数字に過ぎなかった。その一年の間に、人間の生活が含まれていると云う事は考えられなかった。それ・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・思想犯として刑期を終った出獄者を、そのあとまでもかためて住わせて思想善導をしようとして、本願寺が、この建物をこしらえた。国分寺の駅からよっぽど奥へ入った畑と丘の間の隔離された一郭として、これをこしらえた。十月十日、出獄した同志たちは、治安維・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・「その刑期を済ましたのかね。」「ええ。わたくしの約束した女房を附け廻していた船乗でした。」「そのお上さんになるはずの女はどうなったかね。」 エルリングは異様な手附きをして窓を指さした。その背後は海である。「行ってしまったので・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫