・・・ 即ち存在の意義を別個のものとして、新しく生れるということに於て、創造は私たちに歓喜をよびおこす。 詩はついに、社会革命の興る以前に先駆となって、民衆の霊魂を表白している。例えばこれが労働者の唄う歌にしろ、或は革命の歌にしろ、文字と・・・ 小川未明 「詩の精神は移動す」
・・・私自身の悲しさや苦しさや、そんな心持とは、全然関係なく、別個に自由に活きている。きょうは頬紅も、つけないのに、こんなに頬がぱっと赤くて、それに、唇も小さく赤く光って、可愛い。眼鏡をはずして、そっと笑ってみる。眼が、とってもいい。青く青く、澄・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・何ひとつ武器を持たぬ繊弱の小禽ながら、自由を確保し、人間界とはまったく別個の小社会を営み、同類相親しみ、欣然日々の貧しい生活を歌い楽しんでいるではないか。思えば、思うほど、犬は不潔だ。犬はいやだ。なんだか自分に似ているところさえあるような気・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・以前にまた別個に存在しているものなのであろうか。異性間に於いて恋愛でもなく「愛する」というのは、どんな感情だろう。すき。いとし。ほれる。おもう。したう。こがれる。まよう。へんになる。之等は皆、恋愛の感情ではないか。これらの感情と全く違って、・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・芸術作品は、芸術作品として、別個に大事に持扱わなければ、いけないようにも思われる。私は、或いは、かの物語至上主義者になりつつあるのかも知れない。私生活に就ての手落は、私生活の上で、実際に示すより他は無い。見ていて下さい。いまに私は、諸君と一・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・そこには、つながりがありながら、また本質的な差異のある、別箇の世界が展開せられている筈である。 私の夢は現実とつながり、現実は夢とつながっているとはいうものの、その空気が、やはり全く違っている。夢の国で流した涙がこの現実につながり、やは・・・ 太宰治 「フォスフォレッスセンス」
・・・マルクスやエンゲルスとは別個に唯物弁証法的哲学をうちたてたという偉大なドイツの労働者についてくわしくは知らなかったけれど、感じさせた。それはきよらかで、芸術的でさえある気がしていた。ディーツゲンのようにえらくはないにしても、地方にいて、何の・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ この小説の書かれた時代でさえも、まだ個人の感情や個人生活の利害が、階級の感情や利害と一応きりはなされ、ある種の活動家にとっては別個なもののように考えられ得る時代であったこと、また、プロレタリアの世界観は、現実の問題として、階級対立の社・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・今日の空気のうちで物をいう人々の脳裡のどこかに、やはり結婚はまじめだがと、その前提の感情は別個のものとして、低くおとしめて見る癖がのこされていて、いきなり結婚、子供と素朴に出されているのだと思う。 実際の場合として、産め、殖やせという標・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・それがより若い文壇の世代の足を埋めているばかりか、不可避的にそれらの文学の読者であるよりひろい人民層の中から新しく別個の社会的素質をもってのび立って来ようとしている民主的な文学の芽生えさえも、その成長を歪め、畸型にする作用を及ぼしている。い・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
出典:青空文庫