・・・ 前田家は、幕府の制度によると、五世、加賀守綱紀以来、大廊下詰で、席次は、世々尾紀水三家の次を占めている。勿論、裕福な事も、当時の大小名の中で、肩を比べる者は、ほとんど、一人もない。だから、その当主たる斉広が、金無垢の煙管を持つと云う事・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・ 民衆 民衆は穏健なる保守主義者である。制度、思想、芸術、宗教、――何ものも民衆に愛される為には、前時代の古色を帯びなければならぬ。所謂民衆芸術家の民衆の為に愛されないのは必ずしも彼等の罪ばかりではない。 又・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・終わりに臨んで諸君の将来が、協力一致と相互扶助との観念によって導かれ、現代の悪制度の中にあっても、それに動かされないだけの堅固な基礎を作り、諸君の精神と生活とが、自然に周囲に働いて、周囲の状況をも変化する結果になるようにと祈ります。・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・ブルジョアジーをなくするためには、この階級が自己防衛のために永年にわたって築き上げたあらゆる制度および機関をプロレタリアの手中に収め、矛を逆にしてブルジョアジーを亡滅に導かねばならぬ。ブルジョアジーが亡滅すれば、その所産なるすべての制度およ・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・またすべての青年の権利たる教育がその一部分――富有なる父兄をもった一部分だけの特権となり、さらにそれが無法なる試験制度のためにさらにまた約三分の一だけに限られている事実や、国民の最大多数の食事を制限している高率の租税の費途なども目撃している・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・斯ういう職業を賤視する人たちの祖先たる武士というものも亦一つの職業であって封建の家禄世襲制度の恩沢を蒙むって此の武士という職業が維持せられたればこそ日本の大道楽なるかの如く一部の人たちに尊奉せらるゝ武士道が大成したので、若し武士が家禄を得る・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・麗わしい家族制度のためにも、私は、お母さんが、いつも家庭の人たらんこと望むのであります。しかし、それはいまのところ出来ぬ話でありますが、お母さんが、家にいる時、仕事に気を取られていたとする。或は、何か考え事などあって、子供の返事どころでなか・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
・・・ しかし、厳密にいえば、健全なる家庭生活以外には、家族制度の基礎がありとは、考えられないのであるが、すでに、家庭にしてかくのごとくとせば、学校がこれに代り、もしくは社会が、児童を擁護しなければならぬのは当然のことです。幼弱者虐待防止案と・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・そしてそのような制度の音楽会を好もしく思った。 その終わりに近いあるアーベントのことだった。その日私はいつもにない落ちつきと頭の澄明を自覚しながら会場へはいった。そして第一部の長いソナタを一小節も聴き落すまいとしながら聴き続けていった。・・・ 梶井基次郎 「器楽的幻覚」
・・・資本主義制度はもとより悪い。道徳的意味においてこれは呪詛されねばならぬ。われわれは真の人間の共同態フォイエルバッハの Gemeinschaft des Menschen mit dem Menschen を建設せんことを熱願する。しかし物力・・・ 倉田百三 「学生と教養」
出典:青空文庫