・・・ ながい間ごぶさた致しました。 御からだいかがですか。 全くといっていいほど、 何も持っていません。 泣きたくなるようでもあるし、 しかし、 信じて頑張っています。 前便にくらべると、苦しみが沈潜して、何か充・・・ 太宰治 「散華」
・・・けれども、宣言的な前便については一言もふれず、じかに人情に訴える効果を見越したような運びかたは、はる子に落付けないのであった。悲しいいやな心持で、はる子は手紙を状差しにしまった。 秋が来た。夕方、忽ち夜になる。俄かな宵闇に広告塔のイ・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・ 歳暮もおひおひ近く相成候へば、御上京なされ候日の、指折る程に相成候を楽み居り候。前便に申上候井上の嬢さんに引き合せくれんと、谷田の奥さんが申され候ゆゑ、今日上野へまゐり、只今帰りてこの手紙をしたため候。私と谷田の奥さんとにて先に参りを・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫