・・・ 自然女学校は高砂社をも副業とした。教師が媒酌人となるは勿論、教師自から生徒を娶る事すら不思議がられず、理想の細君の選択に女学校の教師となるものもあった。或る女学校では女生の婚約の夫が定まると、女生は未来の良人を朋友の集まりに紹介するを・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ 米吉は、三反歩の小作と、笊あみの副業で食っている。――そこは森林が多かった。御料林だった。御料林でなければ、県有林だった。農民は、一本の樹も、一本の枝も伐ることが出来なかった。同時に、そこは禁猟区だった。畠の岸で見つけた雲雀の卵を取っ・・・ 黒島伝治 「名勝地帯」
・・・私は太郎の労力を省かせるために、あの子に馬を一匹あてがった。副業としての養蚕も将来にはあの子を待っていた。それにしても太郎はまだ年も若し、結婚するまでにも至っていない。すくなくも二人もしくは二人半の働き手を要するのが普通の農家である。それを・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・ フォードが一品一工場としたやりかたで生産工程の組織では全国的にフォード化し分業化しつつ、しかも、村を決してその工業を専門とする工村にはせず、飽くまで副業にとどめて、古来のままの農業精神を主とし、農村全体としての文化の水準などはあるがま・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・けれ共、大業にするのではなく、副業にしているのだからその利益もしれたものである。 一年の間、春、夏、秋、と三度蚕を飼ってあがる利益と、自分の畑のものを売った利益などで純農民は生計を立てて行かなければならない。 表面上は立派に自由の権・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 裁縫師の女房から本が借りられなくなると、ゴーリキイは若いのらくら男女の寄り合い場となっている街のパン屋で、副業に春画を売ったり猥褻な詩を書いてやったり、貸本をしたりしている店から、一冊一哥の損料で豆本を借り出した。そこの本はどの本も下・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・この態度から生れて来る創作というものは、その結果からにちがいはないとしても、創作をするという動作は、たしかに本業ではなくて副業である。創作することが副業であるなら、滅びようと滅びまいと、何かそこには覚悟が自ら生じていくにちがいないのである。・・・ 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫