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・・・さなきだに蒼ざめて血色悪しき顔の夜目には死人かと怪しまれるばかり。剰え髪は乱れて頬にかかり、頬の肉やや落ちて、身体の健かならぬと心に苦労多きとを示している。自分は音を立てぬようにその枕元を歩いて、長火鉢の上なる豆洋燈を取上げた。 暫時聴・・・
国木田独歩
「酒中日記」
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・・・欲しくなると小説でも書かなければならんがそいつは芸術に対して済まない。剰え、最初は自分の名では出版さえ出来ずに、坪内さんの名を借りて、漸と本屋を納得させるような有様であったから、是れ取りも直さず、利のために坪内さんをして心にもない不正な事を・・・
二葉亭四迷
「予が半生の懺悔」