・・・真暗いので、どんなに助かるかわからない。誰も自分に注意しない。映画館の一隅に坐っている数刻だけは、全く世間と離れている。あんな、いいところは無い。 私は、たいていの映画に泣かされる。必ず泣く、といっても過言では無い。愚作だの、傑作だのと・・・ 太宰治 「弱者の糧」
・・・しかしそのかわり他のだいじな致命的な部分はそのおかげで助かるというようにすることはできないものかと思う。こういう考えは以前からもっていた。時々その道の学者たちに話してみたこともあるが、だれもいっこう相手になってくれない。 しかし今度自分・・・ 寺田寅彦 「鎖骨」
・・・ 瓦斯ストーヴでもあると助かるが、さもなくて、大分しばらく待たされてから、やっと大きな火鉢の真中に小さな火種を入れて持参されたのでは、火のおこるまでに骨の髄まで凍ってしまいそうな気がする。またストーヴがあるにはあっても、その部屋の容量を・・・ 寺田寅彦 「新年雑俎」
・・・ 庄太郎は助かるまい。パナマは健さんのものだろう。 夏目漱石 「夢十夜」
・・・食糧がそれだけ助かる。警察の手がいらなくなる。それで世の中が平和になる。安穏になる。うまいもんだ。 チベットには、月を追っかけて、断崖から落っこって死んだ人間がある。ということを聞いた。 日本では、囚人や社会主義者、無政府主義者を、・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・そこに登っておれは助かるか助からないか、事によったら新生代の沖積世が急いで助けに来るかも知れない。さあ、もうたったこの岬だけだぞ。」学士はそっと岬にのぼる。まるで蕈とあすなろとの合の子みたいな変な木が崖にもじゃもじゃ生えてい・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・直接うちに焼夷弾さえおちなければ何とか助かるだろう、と思っていたひとは幾十万かあっただろう。だが、それらの人々も、住むところを失ったのだった。戦争は、地球から絶滅されなければならない。いくらそうは云っても、現実問題としてなかなか戦争というも・・・ 宮本百合子 「『この果てに君ある如く』の選後に」
・・・春江は歯医者にでも行って居た為に助かる。 ◎国男は一日の朝、小田原養生館を立ち大船迄来、鎌倉へ行こうとして居るとき、震災に会い歩いて鎌倉へ行った。為に、被害の甚大な二点を幸運にすりぬけて助かった。 ◎木村兄弟が来、長男の男が上の男の・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・子供はほんとうに皆殺されるやら、わたしが殺されて、小さいものは助かるやら、それはわからない。ただお願いをする時、長太郎だけはいっしょに殺してくださらないように書いておく。あれはおとっさんのほんとうの子でないから、死ななくてもいい。それにおと・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・特に子供は助かる。それに反して普通の直行は臨時汽車の運転を必要とするくらいだからひどくコムに相違ない――で、私は臨時汽車のある事を教えたくてたまらなかったのだ。 私は母親の前に立った。そうして汽車のことを説明した。母親は知らない人から突・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫