・・・けれども、先輩の、あれは駄目だという一言には、ひと頃の、勅語の如き効果がある。彼らは、実にだらしない生活をしているのだけれども、所謂世の中の信用を得るような暮し方をしている。そうして彼らは、ぬからず、その世の中の信頼を利用している。 永・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・「我国体の神聖」「勅語の精神」と云う文字を駆使するのと同様の内面の空虚を文字の麻酔で紛して居ります。彼は、左様な質問を呈出したなら、きっと、其那事を質問する馬鹿があるか、何の為に修身を習って来た! と真赤になりますでしょう。 然し、C先・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 修身科をおくかおかないかも論議まちまちで、修身がほしいと考える人々でさえも、教育勅語的修身を拒否したのは、こんにちの日本として当然であった。子供のために修身を、と考える親の心には、きょうの世相をかえりみて、子供の未来、日本の将来に、人・・・ 宮本百合子 「修身」
・・・このたび廃止された勅語の文章をみてわかるように、日本の権力者の文字の使いかたに対する感覚の手のこんでいることは、天皇制の官僚主義が手のこんだ仕組みであるのと等しい。それだのに、どうして平和の防壁とするというような人道的立場から疑問の生じる表・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・石田は床の間に、軍人に賜わった勅語を細字に書かせたのを懸けている。これを将校行李に入れてどこへでも持って行くばかりで、外に掛物というものは持っていないのである。書画の話なんぞが出ると、自分には分らないと云って相手にならない。 翌日あたり・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・そこでただ新聞から得た知識で政治家を攻撃したり、勅語を捧読したりするだけのことになる。宣伝としては効果はあるまい。 そこで警衛、宣伝ともに有効な効果を挙げ得ぬことになる。それをやって見たところで、ただ父が主観的に満足するだけのことに過ぎ・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫