・・・「目あり煎餅」勝負事をするものの禁厭になると、一時弘まったものである。――その目をしょぼしょぼさして、長い顔をその炬燵に据えて、いとせめて親を思出す。千束の寮のやみの夜、おぼろの夜、そぼそぼとふる小雨の夜、狐の声もしみじみと可懐い折から、「・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ 勝負事には一切見向かない。蒐集癖も皆無である。学者の中で彼ほど書物の所有に冷淡な人も少ないと云われている。尤も彼のような根本的に新しい仕事に参考になる文献の数は比較的極めて少数である事は当然である。いわゆるオーソリティは彼自身の頭蓋骨・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・戦争でなくても、これだけの心尽くしの布片を着込んで出で立って行けば、勝負事なら勝味が付くだろうし、例えば入学試験でもきっと成績が一割方よくなるであろう。務め人なら務めの仕事の能率が上がるであろう。 一針縫うのに十五秒ないし三十秒かかるで・・・ 寺田寅彦 「千人針」
・・・ 勝負事を否定するかと思うと、双六の上手の言葉を引いて修身治国の道を説いたり、ばくち打の秘訣を引いて物事には機会と汐時を見るべきを教えている。この他にも賭事や勝負に関する記事のあるところを見ると著者自身かなりの体験があったことが想像され・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・なる程山本さんに創を附けたのはわたしだが、殺しはしません。勝負事に負けて金に困ったものですから、どうかして金が取りたいと思って、あんなへまな事をしました。わたしは泉州生田郡上野原村の吉兵衛と云うものの伜で、名は虎蔵と云います。酒井様へ小使に・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫