・・・即ち我が精神を自信自重の高処に進めたるものにして、精神一度び定まるときは、その働きはただ人倫の区域のみに止まらず、発しては社会交際の運動となり、言語応対の風采となり、浩然の気外に溢れて、身外の万物恐るるに足るものなし。談笑洒落・進退自由にし・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・曙覧が新言語を用い新趣味を詠じ毫も古格旧例に拘泥せざりしは、なかなかに『万葉』の精神を得たるものにして、『古今集』以下の自ら画して小区域に局促たりしと同日に語るべきにあらず。ただ歌全体の調子において曙覧はついに『万葉』に及ばず、実朝に劣りた・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・芭蕉これに対して今少し和歌の臭味を加えよという、けだし芭蕉は俳句は簡単ならざるべからずと断定してみずから美の区域を狭く劃りたる者なり。芭蕉すでにかくのごとし。芭蕉以後言うに足らざるなり。 蕪村は立てり。和歌のやさしみ言い古し聞き古して紛・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
○ベースボール に至りてはこれを行う者極めて少くこれを知る人の区域も甚だ狭かりしが近時第一高等学校と在横浜米人との間に仕合ありしより以来ベースボールという語ははしなく世人の耳に入りたり。されどもベースボールの何たるやはほとん・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・救助区域はずうっと下流の筏のところなのですが、私たちがこの気もちよいイギリス海岸に来るのを止めるわけにもいかず、時々別の用のあるふりをして来て見ていてくれたのです。もっと談しているうちに私はすっかりきまり悪くなってしまいました。なぜなら誰で・・・ 宮沢賢治 「イギリス海岸」
・・・ クレムリンの古めかしい壁の外をギーとまわって、菩提樹の下にベンチの並んでいる公園の横を通り、電車は次第に工場の多い区域に進みます。 少し先へ行くとモスクワ第一の大金属工場「鎌と鎚」の工場へ出る、その手前で電車を下りた。 町の名・・・ 宮本百合子 「従妹への手紙」
・・・ 外国の住宅区域というところを歩くと、たとえ塀はどんなに高くていかめしくても、そこに何か風流な工夫がほどこされてあって、思いがけぬ透格子や鉄の唐草の間から、庭のたたずまいが見えたりして、一つの街の風景をもなしている。 その界隈にこの・・・ 宮本百合子 「犬三態」
・・・ 現に中国のソヴェト区域の農民はもう集団農場の方法で耕作し、収穫も高めはじめている。 ソヴェト同盟を守〔一九三三年三月〕 宮本百合子 「今にわれらも」
・・・大人の為の労働者クラブは住宅区域の内に、ピオニェールのクラブ、学校、子供の遊び場その他は東側の二隅に、すっかり分離されている。 大人の生活と子供の生活との間のある間隔の欲望、これは現在ソヴェトの意識ある若い時代共通の望みだ。ソヴェトであ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・すでに愁歎と事がきまればいくらか愁歎に区域が出来るが、まだ正真の愁歎が立ち起らぬその前に、今にそれが起るだろうと想像するほどいやに胸ぐるしいものはない。このような時には涙などもあながち出るとも決ッていず、時には自身の想像でわざと涙をもよおし・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫