・・・そこは芸術家の多く住む気取った一区画として知られていますが、そこの若い人々が出している『プレー・ボーイ』という同人雑誌などは、あちらの新らしい、先へ先へ行こうとする所謂「若い芸術家の群」の気分を示していると思います。詩、絵、短篇小説類を集め・・・ 宮本百合子 「アメリカ文士気質」
・・・そんな噂があって、区画整理した分譲地もそこここまばらに住む人が出来ただけで数年が経過していた。すると、一昨年あたりから、地価の方はどうなったのか知らないが、今まで草蓬々としていた四角や長方形やらの空地の上に、いろいろな形の家が、いずれもとり・・・ 宮本百合子 「犬三態」
・・・古い桜樹と幾年か手を入れられたことなく茂りに繁った下生えの灌木、雑草が、かたばかりの枸橘の生垣から見渡せた懐しいコローの絵のような松平家の廃園は、丸善のインク工場の壜置場に、裏手の一区画を貸与したことから、一九二三年九月一日の関東大震災後、・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・ 区画整理が始まって、駒形通りは工場裏のように雑然としている。「無くなっちゃったかな――この模様じゃあぶないな。――あれがないとプログラムが変るんだが……」「どこです」「え?」 私はたのしみの為にわざと返事を明かにせず行・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・ モスクワ河の岸に一区画を占める大建築が進行中だ。黒い足場の間に人は夜業する照明燈の蒼白い強い光線を見、行き違う鉄骨の複雑な影のこい錯綜から、これは巨大な何かが地からもり上って来るのを、人間がたかってある一定の大いさまでおしつけ、まとめ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・畑などどしどし宅地に売られ、広い地所をもった植木屋は新しい切り割り道を所有地に貫通させ、奥に、売地と札を立てた四角い地面を幾区画か示している。私なら、ああいう場処に住むのはいやと思った。新開地で樹木が一本もなく赭土がむき出しなばかりではない・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・若い脚がのびたいだけ伸ばされ、しなやかな背中が向きたいだけ大きく向きかわって闊達に動作しているのではなくて、台だの、持場だの、狭苦しい区画の間で気の毒なほど青春の肉体の動きを制約されている。足と手とを神経とともに細かくつかって、それで飽き飽・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・ この時期を一区画として、文学における教養の問題は、日本文学の中で未曾有の一飛躍を示した。従来は、教養というものに対する作家の態度が、二別二様に分れていたと考えられる。一方には、小説は学問や教養で書くのではない、という、創作における教養・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・其に、如何うしても、生活範囲が或一区画に限られ勝でございますから、刺戟の少い圏境のうちに、働くべき省察は眠って仕舞う事もございましょう。其等種々の原因は兎に角、我国の女性が、女性自らの事に就ても、可成沈黙であると云う事は、如何うしても、一方・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 午後、復興局に働いている若者が見舞いに来た。区画整理で、寺の墓地を移転するについて、柳生但馬守の墓を掘ったら、中には何もなかったと云う話をした。「へえ、奇体なことがあるね、どうしたんだろう」 まさ子は興味を示した顔つきで、その・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
出典:青空文庫