・・・これは即ち山査子の灌木。俺は灌木の中に居るのだ。さてこそ置去り…… と思うと、慄然として、頭髪が弥竪ったよ。しかし待てよ、畑で射られたのにしては、この灌木の中に居るのが怪しい。してみればこれは傷の痛さに夢中で此処へ這込だに違いないが、そ・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・と言いますので、医師に相談しますと、医師はこの病気は心臓と腎臓の間、即ち循環故障であって、いくら呑んでも尿には成らず浮腫になるばかりだから、一日に三合より四合以上呑んではよくないから、水薬の中へ利尿剤を調合して置こうと言って、尿の検査を二回・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・ 上村君なんかは最初、馬鈴薯党で後に牛肉党に変節したのだ、即ち薄志弱行だ、要するに諸君は詩人だ、詩人の堕落したのだ、だから無暗と鼻をぴくぴくさして牛の焦る臭を嗅いで行く、その醜体ったらない!」「オイオイ、他人を悪口する前に先ず自家の所信・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・すると忽ちいざりの脚が立って、蹴とばした者の脚が立たなくなってへたばりこんでしまったという。即ちバチが、それこそテキ面だったのである。またあるとき、盲目の眼があいた。と、そのメクラは、島四国をめぐってさえ眼があくのならば、本四国をめぐったら・・・ 黒島伝治 「海賊と遍路」
・・・塾は実に小規模のもので、学舎というよりむしろただの家といった方が適当な位のものでして、先生は一人、先生を輔佐して塾中の雑事を整理して諸種の便宜を生徒等に受けさせる塾監みたような世話焼が二三人――それは即ち塾生中の先輩でして、そして別に先生か・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・ 即ち死ちょうことに伴なう諸種の事情である、其二三を挙ぐれば、天寿を全うして死ぬのでなく、即ち自然に老衰して死ぬのでなくして、病疾其他の原因から夭折し、当然享くべく味うべき生を、享け得ず味わい得ざるを恐るるのである、来世の迷信から其妻子・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・而してその特異なる點は天文暦日に關するもの也。即ち天に關する分子なり。 次に舜典に徴するに、舜は下流社會の人、孝によりて遂に帝位を讓られしが、その事蹟たるや、制度、政治、巡狩、祭祀等、苟も人君が治民に關して成すべき一切の事業は殆どすべて・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・れるくらい接してみたい、頃日、水族館にて二尺くらいの山椒魚を見て、それから思うところあってあれこれと山椒魚に就いて諸文献を調べてみましたが、調べて行くうちに、どうにかして、日本一ばん、いや日本一ばんは即ち世界一ばんという事になりますが、一ば・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・も入れて飲食物と見るべきものが三十八分の三、即ち八プロセント弱である。これくらいならば普通であるかもしれないが、岱水の場合は少し多すぎるように思われる。それからまた岱水では「醤のかびをかき分けて」というのと、巻はちがうが「月もわびしき醤油の・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・少くとも発明という賛辞に価するだけに発明者の苦心と創造力とが現われている。即ち国民性を通過して然る後に現れ出たものである。 こういう点から見て、自分は維新前後における西洋文明の輸入には、甚だ敬服すべきものが多いように思っている。徳川幕府・・・ 永井荷風 「銀座」
出典:青空文庫