・・・そこで島田が或る本屋を口説いたところが、数学の本を書いてくれるなら金を出そうというので、それから島田がドコからか原書を借出して来て、二人して一週間ばかりで書上げたのがアノ本サ。早速金に換えて懐ろが温まったので、サア繰出せと二人して大豪遊を極・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・中村敬宇先生が漢文に訳せられた『西国立志編』の原書もたしか読んだように思っている。 中学を出て、高等学校の入学試験を受ける準備にと、わたくしたちは神田錦町の英語学校へ通った時、始めてヂッケンスの小説をよんだ。 話は前へもどって、わた・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・一、漢字を知らざれば、原書を訳するにも訳書をよむにも、差支多し。ゆえに、最初エビシを学ぶときより、我が、いろはを習い、次第に仮名本を読み、ようやく漢文の書にも慣れ、字の数を多く知ること肝要なり。一、幼年の者へは漢学を先にして、後に洋・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・ためには漢書をも用い、学問の本体はすなわち英学にして、英字、英語、英文を教え、物理学の普通より、数学、地理、歴史、簿記法、商法律、経済学等に終り、なお英書の難文を読むの修業として、時としては高尚至極の原書を講ずることもあり。また道徳の課にい・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・是等の事に就ては世間に原書もあり翻訳書もあり、之を読むは左までの苦労にあらず、婦人の為めには却て面白かる可し。一 下女下男を召使うは随分骨の折れることにして、使われる者は力を労し使う者は心を労す。主人の方こそ却て苦労多かる可し、下女下男・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・その然る所以は、訳者が心を用いて特に避けたるにあらずして、原書中を求めて斯る醜談に見当たらざればなり。今仮に西洋の原書を離れて、これに易うるに日本流の落語滑稽を以てせんとして、その種類を集めたらばいかなるものを得べきや。談柄必ず肉体の区域に・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 南江堂へ聞いてみたところ、目録はドイツ語の医書と科学書の原書のみで、訳註本のはやはり出していないのだそうです。 ウワバミ元気のこと[自注4]については、一同に朗読して聞かせたところ、御難という程でもなかったとのことです。あなたのト・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・大抵訳本に添えて書くべき事は、原書の由来とか原作者の伝記とか云うもので、その外は飜訳の凡例のような物であろう。その原書の由来と説明とは、所謂ファウスト文献、一層広く言えばギョオテ文献があって、その汗牛充棟ただならざる中にいくらでもある。現に・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
・・・後に言った三つの書物は、背革の文字で見ると、ドイツの原書である。エルリングはドイツを読むと見える。書物の選択から推して見ると、この男は宗教哲学のようなものを研究しているらしい。 大きな望遠鏡が、高い台に据えて、海の方へ向けてある。後に聞・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫