・・・それは、私に於ては、ゆるがぬ真実ではあっても、「葛原勾当日記」原本に於ては、必ずしも、事実で無い。はっきりした言いかたをするなら、それは、作家の、ひとりよがりの、早合点に過ぎぬだろう。けれども私は、意識して故勾当を、おとしめようとした覚えは・・・ 太宰治 「盲人独笑」
・・・たまには複製でない本当の原本と思われる絵を見出して愉快を感じる事もあったが、ややもすればその独創的な点がもうそろそろ一種の安心したような、これでいいといったようなおさまり方に変化するのを認めて失望した。どうかしてもう少し迷っている画家のおさ・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・を折角訳された神近さんが、原本の後半をすこしのこして「物理の発達」という章を割愛されたというのは、残念千万なことだったと思う。物理のことが語られていたのなら、あるいは数学の発達の歴史の物語も、同じように割愛された頁の中に入っていたのではなか・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ 気まかせにこのごろ出た単純生活と前から出て居た原本をひっぱりだこをしてよんで見た。これも赤い条だらけになってしまった。 一寸何をしていいかわからなかったので、百科大辞典を片っぱしから見て行く、私はよく、一寸手のあいた時に、字引や言・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・その一例は第一部でグレエトヘンが恋の成否を占う花はステルンブルウメと原本にある。それを江南紫と書いたが、私自身に不安心なので、牧野富太郎さんに問い合せた。すると牧野さんが精しく調べて返事をして下すった。どうもドイツで単にステルンブルウメと云・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫