・・・見れば、完全かも知れないが実際あるかないか分らない理想的人物を描いて、それらの偶像に向って瞬間の絶間なく努力し感激し、発憤し、また随喜し渇仰して、そうして社会からは徳義上の弱点に対して微塵の容赦もなく厳重に取扱われて、よく人が辛抱しておった・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・東京に一士人あり、頗る西洋の文明を悦び、一切万事改進進歩を気取りながら、其実は支那台の西洋鍍金にして、殊に道徳の一段に至りては常に周公孔子を云々して、子女の教訓に小学又は女大学等の主義を唱え、家法最も厳重にして親子相接するにも賓客の如く、曾・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・西洋文明国の男女は果たして潔清なりやというに、決して然らず、極端について見れば不潔の甚だしきもの多しといえども、その不潔を不潔としてこれを悪み賤しむの情は日本人よりも甚だしくして、輿論の厳重なることはとても日本国の比にあらず。故に、かの国々・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・近き将来、各国から委員が集って充分商議の上厳重に処罰されるのはわかり切ったことである。又この事実は、ビジテリアンたちの主張が、畢竟自家撞着に終ることを示す。則ちビジテリアンは動物を愛するが故に動物を食べないのであろう。何が故にその為に食物を・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・団員はみんな若いコムソモールで、共同経済と厳重な規約の下に階級的な集団生活をやっている。そこへ加入するには必ずある一定の期間実際生産労働に従事した者でなければならないのである。レーニングラード・トラムは自身の劇場をもっている。モスクワでトラ・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・やっぱり全СССРのラジオの決議で活きかえらすことになり、珍動物として厳重な檻の中で試育され、マスクをかけた一九七九年代の社会主義教授が男女学生に官僚主義という珍しい習性について説明してやるという筋だ。 五幕九場のこの喜劇は、ソヴェトが・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・今日でもサラ・ブレッドが珍重されるように、ましてや自分の大事な宝物と思われる財産のゆずりうけをする男の子は、厳重に、父親からのサラ・ブレッドでなければならないと思われて来た。 婦人に対して、社会が、生存の基本になるモラルとして、貞操を要・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・山崎の屋敷では門を厳重に鎖して静まりかえっていた。市太夫や五太夫の宅は空屋になっていた。 討手の手配りが定められた。表門は側者頭竹内数馬長政が指揮役をして、それに小頭添島九兵衛、同じく野村庄兵衛がしたがっている。数馬は千百五十石で鉄砲組・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・と、娘は厳重な詞附きで問うた。 ツァウォツキイは左の手でよごれた着物の胸を押さえた。小刀の痕を見附けられたくなかったのである。そしてもうこの娘を見たから、このまま帰ってもよいのだと心の中に思った。しかし問われて見れば返事をしないわけには・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・日本の文芸の作品は世界的な広い視野のなかでもっと厳重に淘汰されてよいのである。先生が思い切ってそれをやろうとせられなかったことは、今考えても惜しい気がする。 先生が京都で講義せられていたときのことを後に成瀬無極氏から聞いたことがある。成・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫