・・・害毒の二つは反動的に、一層他人を俗にする事だ。小えんの如きはその例じゃないか? 昔から喉の渇いているものは、泥水でも飲むときまっている。小えんも若槻に囲われていなければ、浪花節語りとは出来なかったかも知れない。「もしまた幸福になるとすれ・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・それから社会主義の某首領は蟹は柿とか握り飯とか云う私有財産を難有がっていたから、臼や蜂や卵なども反動的思想を持っていたのであろう、事によると尻押しをしたのは国粋会かも知れないと云った。それから某宗の管長某師は蟹は仏慈悲を知らなかったらしい、・・・ 芥川竜之介 「猿蟹合戦」
・・・が、その内に泰さんは勇気を振い起したと見えて、今まで興奮し切っていた反動か、見る見る陰鬱になり出したお敏に向って、「その間の事は何一つまるで覚えていないのですか。」と、励ますように尋ねたそうです。と、お敏は眼を伏せて、「ええ、何も――」と答・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・後趾で反動を取って起きそうにしては、前脚を折って倒れてしまった。訓練のない見物人は潮のように仁右衛門と馬とのまわりに押寄せた。 仁右衛門の馬は前脚を二足とも折ってしまっていた。仁右衛門は惘然したまま、不思議相な顔をして押寄せた人波を見守・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・それはその当時においては前者の反動として認められた。個人意識の勃興がおのずからその跳梁に堪えられなくなったのだと批評された。しかしそれは正鵠を得ていない。なぜなればそこにはただ方法と目的の場所との差違があるのみである。自力によって既成の中に・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ 扉を押すと、反動でドンと閉ったあとは、もの音もしない。正面に、エレベエタアの鉄筋が……それも、いま思うと、灰色の魔の諸脚の真黒な筋のごとく、二ヶ処に洞穴をふんで、冷く、不気味に突立っていたのである。 ――まさか、そんな事はあるまい・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・激昂の反動は太く渠をして落胆せしめて、お通は張もなく崩折れつつ、といきをつきて、悲しげに、「老夫や、世話を焼かすねえ。堪忍しておくれ、よう、老夫や。」 と身を持余せるかのごとく、肱を枕に寝僵れたる、身体は綿とぞ思われける。 伝内・・・ 泉鏡花 「琵琶伝」
・・・僕はそのふくれている様子を想像出来ないではないが、いりもしない反動心が起って来ると同時に、今度の事件には僕に最も新らしい生命を与える恋――そして、妻には決して望めないの――が含んでいるようにも思われた。それで、妾にしても芸者をつれて帰るかも・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
亜米利加の排日案通過が反動団体のヤッキ運動となって、その傍杖が帝国ホテルのダンス場の剣舞隊闖入となった。ダンスに夢中になってる善男善女が刃引の鈍刀に脅かされて、ホテルのダンス場は一時暫らく閉鎖された。今では余熱が冷めてホテルのダンス場・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・と、あまり自分達に個性がなさすぎるのが悟られて、反動的に、自己憎悪を感じたのでありました。 事実、面白いといわれたので、自分に少しも面白くないものがあります。その文体が、そこにあらわれた趣味、考え方が、どうしても、ぴたりと心に合致し・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
出典:青空文庫