・・・やれ、看護婦になっているのを見たの、やれ、妾になったと云う噂があるの、と、取沙汰だけはいろいろあっても、さて突きつめた所になると、皆目どうなったか知れないのです。新蔵は始気遣って、それからまた腹を立てて、この頃ではただぼんやりと沈んでいるば・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・ 蝶子は柳吉をしっかりした頼もしい男だと思い、そのように言い触らしたが、そのため、その仲は彼女の方からのぼせて行ったといわれてもかえす言葉はないはずだと、人々は取沙汰した。酔い癖の浄瑠璃のサワリで泣声をうなる、そのときの柳吉の顔を、人々・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・それから一箇月近く私はその旅館の、帳場の小箪笥の引出しにいれられていましたが、何だかその医学生は、私を捨てて旅館を出てから間もなく瀬戸内海に身を投じて死んだという、女中たちの取沙汰をちらと小耳にはさみました。『ひとりで死ぬなんて阿呆らしい。・・・ 太宰治 「貨幣」
・・・たしたく、ただし深沼家に於いては、私の鶴亀わめき出ずる様の会には、出席いたさぬゆえ、このぶんでは、出版記念会も、深沼家全員出席の会、ほかに深沼家欠席、鶴亀出現の会、と二つ行わずばなるまいなど、深沼家の取沙汰でございます。尚、このたびは、『英・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・きのう永井荷風という日本の老大家の小説集を読んでいたら、その中に、「下々の手前達が兎や角と御政事向の事を取沙汰致すわけでは御座いませんが、先生、昔から唐土の世には天下太平の兆には綺麗な鳳凰とかいう鳥が舞い下ると申します。然し当節のように・・・ 太宰治 「三月三十日」
・・・ひとり息子なのに三郎と名づけるとは流石に学者らしくひねったものだと近所の取沙汰であった。どうしてそれが学者らしいひねりかたであるかは誰にも判らなかった。そこが学者であるということになっていた。近所での黄村の評判はあまりよくなかった。極端に吝・・・ 太宰治 「ロマネスク」
出典:青空文庫