・・・ 他人の生と労作との成果をただ受容してすまそうとするのは怠惰な態度である。というのは生と労作は危険を賭し、血肉を削ってしかなされないものであって、一冊のすぐれた著書を世に贈り得ることは容易ではないからである。 過度の書物依頼主義にむ・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ 大衆の初等教育というのは、文盲打破にはじまって、彼等を楽しませながら教育する文学作品に対する活溌な受容力と批判力の養成を含むものではないであろうか。恐らく生れつき彼自身がひどく文学を愛しているに違いないトポーロフは、そこで、農民のため・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・そして明治三十二年つまり日本に女学校令というものが出来た年になって、社会一般が婦人問題について漸く受容れる気風が出来たと認めて、始めて「新女大学」を発表した。「新女大学」の中で、今日もなお注目されるべきことは、著者が、婦人を男子と等しい・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・この事実から眼をそむけて神と死後の生とを仮構するのは、現実をありのままに受容するに堪えない卑怯者の所作に過ぎぬ。――かくのごとき常識にとっては「神が死んだ」という宣告のごときはもはや何の刺激にもならない。神はもともと存在しなかったのである。・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・―― 人間が幼稚であり素朴であったゆえにこの美を受容することが困難であったと考えてはいけない。素朴な心は解釈において単純であり、省察において粗雑である。しかしその本能的な直覚においては内生の雑駁な統一の力の弱い文明人よりはるかに鋭いので・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・とはただ受容的に即自の対象を受け取ることではない。観ること自身がすでに対象に働き込むことである、という仕方においてのみ対象はあるのである。我は没せられつつ、しかも対象として己れを露出して来る。ここに著者の風物記の滋味が存すると思う。 も・・・ 和辻哲郎 「『青丘雑記』を読む」
出典:青空文庫