・・・ 私たちの著作を叢書の形に集めて、予約でそれを出版することは、これまでとても書肆によって企てられないではなかった。ある社で計画した今度の新しい叢書は著作者の顔触れも広く取り入れてあるもので、その中には私の先輩の名も見え、私の友だちの・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・ それでこの間この書物を某書店の棚に並んだ赤表紙の叢書の中に見附けた時は、大いに嬉しかった。早速読みかかってみるとなかなか面白い。丁度自分が知りたいと思っていたような疑問の解釈が到る処に出て来た。そして更に多くの新しい問題を暗示された。・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・ つい近頃本屋の棚で薄っぺらな「インゼル・ビュフェライ叢書」をひやかしていたら、アレクサンダー・ウラールという人の『老子』というのが出て来た。たった七十一頁の小冊子である。値段が安いのと表紙の色刷の模様が面白いのとで何の気なしにそれを買・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・と称する叢書があって「黄金丸」「今弁慶」「宝の山」「宝の庫」などというのが魅惑的な装幀に飾られて続々出版された。富岡永洗、武内桂舟などの木版色刷りの口絵だけでも当時の少年の夢の王国がいかなるものであったかを示すに充分なものであろう。 こ・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・実際こんなありがたい叢書はない。容易に手に入らないか、さもなければ高い金を払わなければならない物が安く得られるのである。戦争のために、この本の代価までが倍に近く引き上げられた事は、自分ばかりでなく多数の人の痛切に感じる損失であろうと思う。・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・ いろんなそんなことを考えているとき、中央公論社から出している現代世界文学叢書の一冊の「黄金の仔牛」を読んだ。これはソヴェトの諷刺小説で、以前「十二の椅子」という諷刺小説を書いたイリフ、ペトロフ合作の長篇である。ジャーナリスト出身のペト・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・ 各地方ロカフの激励によって「文学と戦争叢書」が続々刊行されはじめた。その一部として、アダム・ドミトリエフの『よし! 船をひけ』。別に、国内戦時代赤軍で働き有名な脚本「ラズローム」を書いたボリス・ラヴレーニェフの『斯うして防衛する』とい・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・良いもの、纏ったものは皆東京にうつされ此方に遺っているのは、ちぐはぐな叢書の端本、一寸した単行本等に過ない筈である。 ひどくこの地方名物の風が吹き荒んで、おちおちものも書けない或る日、私は埃くさい三畳で古本箱やその囲りに散っている本等を・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・その懇話会賞も制定され、その名の叢書も刊行され、それらの小説集の表紙には時の農林大臣有馬頼寧の写真が帯封の装飾として使われるという前例のない有様を呈した。 近代及び現代の日本文学の中で、農民文学の占めて来た位置とその消長の跡とは、日本の・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・は昭和十四年に支那現代文学叢書第一輯として出されたものである。七篇の作品が収められている。落華生「春桃」、冰心女士「超人」「うつしえ」、葉紹鈞「稲草人」「古代英雄の石像」、郭沫若「黒猫」「自叙伝」等である。 これら七篇の作品を読み、一貫・・・ 宮本百合子 「春桃」
出典:青空文庫