・・・おひさまがその葉をすかして古めかしい金いろにしたのです。それを見ているうちに、(木ペン樺の木に沢山キッコはふっとこう思いました。けれども樺の木の小さな枝には鉛筆ぐらいの太さのはいくらでもありますけれども決して黒い心がはいってはいない・・・ 宮沢賢治 「みじかい木ぺん」
・・・ クレムリンの古めかしい壁の外をギーとまわって、菩提樹の下にベンチの並んでいる公園の横を通り、電車は次第に工場の多い区域に進みます。 少し先へ行くとモスクワ第一の大金属工場「鎌と鎚」の工場へ出る、その手前で電車を下りた。 町の名・・・ 宮本百合子 「従妹への手紙」
・・・もしかしたら、今更そんな古めかしい挨拶を思い出したりすることを、ばかばかしく思うかたがあるかもしれません。何しろ、十五年前なら八十五円に当る千八百円ベースというもので、とどめをさされた収入なのに、物価は丸公の値上りで、あがる一方の一年でした・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・「いんへるの」古めかしい平仮名で懇に書かれたそれ等の文句には、微に詩情を動かすものさえある。けれども、私がたんのうする迄いるには、案内役に立たれた永山氏が多忙すぎる。数日の中にジャに出発されるところなのだ。福済寺、大浦、浦上天主堂への紹介を・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
河原蓬と云う歌めいた響や、邪宗の僧、摩利信乃法師等と云う、如何にも古めかしい呼名が、芥川氏一流の魅力を持って、私の想像を遠い幾百年かの昔に運び去ると同時に、私の心には、又何とも云えないほど、故国の薫りが高まって来た。 ・・・ 宮本百合子 「無題」
・・・ 森さんの旧邸は今元の裏が表口になっていて、古めかしい四角なランプを入れた時代のように四角い門燈が立っている竹垣の中にアトリエが見えて、竹垣の外には団子坂を登って一息入れる人夫のために公共水飲場がある。傍にバスの停留場がある。ある日、私・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
出典:青空文庫