・・・ 同級生に憎まれながらやがて四年生の冬、京都高等学校の入学試験を受けて、苦もなく合格した。憎まれていただけの自尊心の満足はあった。けれども、高等学校へはいって将来どうしようという目的もなかった。寄宿舎へはいった晩、先輩に連れられて、・・・ 織田作之助 「雨」
・・・そのため彼等はやがて高等文官試験に合格した日、下宿の娘の誘惑に陥らないような克己心を養うことに、不断の努力をはらっていた。もっとも手ぐらいは握っても、それ以上の振舞いに出なければ構わぬだろうという現金な考えを持っていたかも知れない。 何・・・ 織田作之助 「髪」
・・・ と心配したが、それから一月余り経ったある朝の新聞の大阪版に、合格者の名が出ていて、その中に田村道子という名がつつましく出ていた。道子の姓名は田中道子であった。それが田村道子となっているのは、たぶん新聞の誤植であろうと、道子は一応考えた・・・ 織田作之助 「旅への誘い」
・・・県立中学に多分合格しているだろうが、若し駄目だったら、私立中学の入学試験を受けるために、成績が分るまで子供は帰らせずに、引きとめている。ということだった。「もう通らなんだら、私立を受けさしてまで中学へやらいでもえいわやの。家のような貧乏・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・そして、ついにおしかには無断で、二里ばかり向うの町へ入学試験を受けに行った。合格すると無理やりに通学しだした。彼は、成績がよかった。 中学を出ると、再び殆んど無断で、高商へ学校からの推薦で入学してしまった。おしかは愚痴をこぼしたが、親の・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・私は丙種合格で、しかも貧乏だが、いまは遠慮する事は無い。東京名所は、更に大きい声で、「あとは、心配ないぞ!」と叫んだ。これからT君と妹との結婚の事で、万一むずかしい場合が惹起したところで、私は世間体などに構わぬ無法者だ、必ず二人の最後の・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・さちよは、父のつとめているその女学校に受験して合格した。はじめ、父とふたり、父の実家に寄宿して、毎朝一緒に登校していたのであるが、それでは教育者として、ていさいが悪いのではないか、と父の実家のものが言い出し、弱気の父は、それもそうだ、と一も・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・それで、もしも審査に合格したある学位論文が、多くの学者の眼で見てなんらの価値がないものであったり、あるいは明白な誤謬に充ちたものであったとしたらどうであろう。たとえ公然と表立ってそれを指摘し攻撃する人がないとしても、それを審査し及第させた学・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・不折の如きも近来評判がよいので彼等の妬みを買い既に今度仏国博覧会へ出品する積りの作も審査官の黒田等が仕様もあろうに零点をつけて不合格にしてしまったそうだ。こう云う風であるから真面目に熱心に斯道の研究をしようと云う考えはなく少しく名が出れば肖・・・ 寺田寅彦 「根岸庵を訪う記」
・・・これは理論上からは必ずしもそう困難なことではなく、前述のような分析を行なった上で、その疑いのあるものは淘汰して他に転ずるかあるいはまた前に述べたこともあるとおり、かくして不合格になったものを仮想的第二次前句と見立ててこれに対する付け句を求め・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫