・・・また女学校の入学試験に合格しなかった時、娘の顔に現われるような表情もない。 わたくしはここに一言して置く。わたくしは医者でもなく、教育家でもなく、また現代の文学者を以て自ら任じているものでもない。三田派の或評論家が言った如く、その趣味は・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・外聞がわるそうな公売で、東芝の生産した不合格品のストックや、会社として負担になっていたけれども潰してしまえなかった下請け工場の整理が出来て――労働者をクビにすることが出来て――或る意味では悪くなかったというのが現実である。大資本は、税の滞納・・・ 宮本百合子 「正義の花の環」
・・・ 激しく出るようになった咳と聾になる恐怖との間で、二十歳のマリアはサロンへはじめてコンスタンシ・ルスという名で出品をし、合格した。この時のサロンにバスチャン・ルパアジュの有名な「ジャンヌ・ダルク」が出品され、マリアに甚大な感動を与えた。・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・だが、翌年の秋には、東京中学の五年の二学期の補欠試験に合格している。六高に入った時、「父はじめて喜ぶ」と特記されているのであるが、秋に「父が死去したので、入学を取消し、家事の後始末をするため、荷物を背負って商いをやる。」一九〇八年。「家事整・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫