・・・あしかれ知識階級の一特質をなす知性の世界を観念過剰の故に否定して、単純な勤労の行動により人間としての美と価値とを見出そうとしていることは、一方の極に生産文学を持った当時の人間生活精神の単純化への方向と合致していて、極めて注目を惹かれる。・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・けれども、そうはいっても、その場所とその人の装いとが合致していれば、人々個々のことはどうでもいいことです。 動物 好きなのは先ず犬、馬、牛――牛もミルク・カウェーもいいけれど、朝鮮牛も悪くないと思います。そのほ・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
・・・の中には散見するのであるが、精神的高揚の究極は茶道の精神と一脈合致した「静中に動」ありという風な東洋的封建時代の精神的ポーズに戻る今日のインテリゲンチア作家の重い尾骨は、年齢を超えて正宗にも横光にも全く同じ傾向をもって現れている。このことは・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・また「環境と人間的活動との変化の合致、あるいは自己変革は、ただ革命的実践としてのみとらえられ、且つ合理的に理解することができる」のである。 プロレタリア文化・文学運動とその活動家全員がすき間なくレーニン的党派性をもって貫かれ武装されるこ・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・ 動揺のモメントが共産主義や進歩的な文化運動への批判、個性の再吟味にあるという近代知識人的な自覚は、その実もう一重奥のところでは、土下座をしているあわれなものの姿と計らず合致していると思うのである。 私がさっき村山や中野に連関してく・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・この感じはわたくしの意中の車と合致しがたい。そこでわたくしはむなぐるまと訓むことにした。わたくしは着意してこの古言の帯びている時と所との色をうばって、新たなる語としてこれを用いるのである。そしてかのなつかしくない、軽そうに感ぜさせるからぐる・・・ 森鴎外 「空車」
・・・これが彼の象徴主義と合致した点なのである。古い演劇は外形的模倣的、ただ平凡な意味における幻影を目的とし、誇大によって勝利を得ていた。デュウゼは演劇を暗示と神秘と芸術的省略とに充ちた複雑な精神的な芸術となしたのだ。 エレオノラ・デュウ・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
・・・そこでこの三人の間の気合いの合致が何よりも重大な契機になる。人形が生きて動いている時には、同時にこの三人の使い手の働きが有機的な一つの働きとして進展している。見る目には三人の使い手の体の運動があたかも巧妙な踊りのごとくに隙間なく統一されてな・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
・・・すなわち自然の美とは、「無常無情の自然物と人間の心とが合致して生まれた暖かき子供」である。人は自然において美を感ずる瞬間に、すでに自ら「製作」しているのである。この考えを押し進めて行けば、同じ事が人間自身の肉体についても言えるであろう。肉体・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫