・・・ ばかに自分の事ばかり書きすぎたようにも思うが、しかし、作家が他の作家の作品の解説をするに当り、殊にその作家同士が、ほとんど親戚同士みたいな近い交際をしている場合、甚だ微妙な、それこそ飛石伝いにひょいひょい飛んで、庭のやわらかな苔を踏ま・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・どうしても、男同士で話合うように、さっぱりとはまいりません。自分の胸の中のどこかに、もやもやと濁っているものがあるような気がしていけません。あれは、やはり、私の色気のせいだと思うのですが、どんなものでしょうか。しかしまた、私にそんなこだわり・・・ 太宰治 「嘘」
・・・まるきり言語の通ぜぬ外国人同士のようである。いつも女房の方が一足先に立って行く。多分そのせいで、女学生の方が、何か言ったり、問うて見たりしたいのを堪えているかと思われる。 遠くに見えている白樺の白けた森が、次第にゆるゆると近づいて来る。・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・聴講者には外国人も多かったが外国人同士はやはり自然に近付きになりやすかった。英国人のオージルヴィ君や、ルーマニアのギリッチ君などとよく教室入口の廊下で立話をした。後者は今ベルグラードの観測所に居るが前者の消息は分らない。ドイツ学生の中にはず・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・不実同士揃ッてやがるよ。平田さん、私がそんなに怖いの。執ッ着きゃしませんからね、安心しておいでなさいよ。小万さん、注いでおくれ」と、吉里は猪口を出したが、「小杯ッて面倒くさいね」と傍にあッた湯呑みと取り替え、「満々注いでおくれよ」「そろ・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・世間普通の例に男同士の争論喧嘩は珍らしからねど、其男子が婦人に対して争うことは稀なり。是れも男子の自から慎しむには非ずして、実は婦人の柔和温順、何処となく犯す可らざるものあるが故ならん。啻に男女の間のみならず、男子と男子との争にも婦人の仲裁・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・一 女子の結婚、就中その他家に嫁したる結婚の後、その家の舅姑に事うるの法如何は古来世論の喋々する所にして、又実際に於ても女同士なる姑と嫁との間に衝突の起るは珍らしからず。仮令い或は表面に衝突せざるも、内心相互に含む所ありて打解けざるは、・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 更に、その愛という言葉が、人間同士の思いちがいや、だましあいの媒介物となったのは、いつの頃からでしょう。そして、愛という字が近代の偽善と自己欺瞞のシムボルのようになったのはいつの時代からでしょうか。三文文士がこの字で幼稚な読者をごまか・・・ 宮本百合子 「愛」
・・・ 私はその文章をよんで、女同士の共感というものも歴史性の相異によっては、全く裂かれているものだという事実を面白く思った。そして自分に即さず一つの社会的な事実としてこの事を観察すると、私は、日本の現在の階級対立のけわしさや、そのきびしい抑・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・他人同士では、こういう話を持ち出して、それが不調に終ったあとは、少くもしばらくの間交際がこれまで通りに行かぬことが多い。親戚間であってみれば、その辺に一層心を用いなくてはならない。 ここに仲平の姉で、長倉のご新造と言われている人がある。・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫