・・・上に読半しの書籍が開いたまま置かれてあったのを何であると訊くと、二葉亭は極めて面羞げな顔をして、「誠にお恥かしい事で、今時分漸と『種原論』を読んでるような始末で、あなた方英書をお読みになる方はこういう名著を早くから御覧になる事が出来るが、露・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・文章の拙劣な科学的名著というのは意味をなさないただの言葉であるとも言われよう。 若い学生などからよく、どうしたら文章がうまくなれるか、という質問を受けることがある。そういう場合に、自分はいつも以上のような答えをするのである。何度繰り返し・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・先生の名著『言長語』の二巻は明治三十二、三年の頃に公刊せられた。同書に載せられた春の墨堤という一篇を見るに、「一、塵いまだたたず、土なほ湿りたる暁方、花の下行く風の襟元に冷やかなる頃のそぞろあるき。 一、夜ややふけて、よその笑ひ声も・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・ 一八六七年、遂に世界的な名著『資本論』第一巻が出版された。カールは四十九歳、イエニーは五十三の時であった。 一八六四年の第一インターナショナルの成立。一八七〇年の普仏戦争と、翌年三月十八日に起ったパリ・コンミューンとその悲劇的な、・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・という世界的な名著をもっていて、それはやはり神近さんが訳して岩波文庫に二冊で出ている。 コフマンの目ざすところは「何でも必要な事実だけ、科学的な事実だけをそれもなるべく早く知らせてそれに子供たちの興味を起させ、その興味の成長によって大き・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ 並べて見ているだけでよろこばしい亢奮を覚えるというような工合で、国民文庫刊行会で出版した泰西名著文庫をよみ、同じ第二回の分でジャン・クリストフなども読んだ。手のひらと眼玉がそれらの本に吸いつくという感じで、全心を傾倒した。 五十銭・・・ 宮本百合子 「祖父の書斎」
出典:青空文庫