・・・この他なお細かに吟味せば、蓄妾淫奔・遊冶放蕩、口にいい紙に記すに忍びざるの事情あらん。この一家の醜体を現に子供に示して、明らかにこれに傚えと口に唱えざるも、その実は無辜の小児を勧めて醜体に導くものなり。これを譬えば、毒物を以て直にこれを口に・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・数、加減乗除、比例等の算術にいたり、句読は、府県名・国尽・翻訳の地理・窮理書・経済書の初歩等を授け、あるいは訳書の不足する所はしばらく漢書をもって補い、習字・算術・句読・暗誦、おのおの等を分ち、毎月、吟味の法を行い、春秋二度の大試業には、教・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・ もとよりこれがために栄誉を博したるにあらず、人情一般、西洋の事物を穢なく思う世の中に、この穢なき事を吟味するは洋学者に限るとして利用せられたるその趣は、皮細工に限りてえたに御用をこうむりたるの情に異ならざりしといえども、えたにても非人・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・ 例えば支那流に道徳の文字を並べ、親愛、恭敬、孝悌、忠信、礼義、廉潔、正直など記して、その公私の分界を吟味すれば、親愛、恭敬、孝悌は、私徳の誠なるものにして、忠信、礼義、廉潔、正直は、公徳の部に属すべし。けだし忠信以下の箇条も固より家内・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・でありますが、いくら物の命をとらない、自分ばかりさっぱりしていると云ったところで、実際にほかの動物が辛くては、何にもならない、結局はほかの動物がかあいそうだからたべないのだ、小さな小さなことまで、一一吟味して大へんな手数をしたり、ほかの人に・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・の検討は、われわれの関心、反省を、自身のプロレタリア作家としての活動の吟味に導いて来る。作家同盟で目下とり上げられている組織活動と創作活動の統一の問題にふれて来るのである。 十月号『プロレタリア文学』に鈴木清がこの問題について「一歩前進・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 戦時中の反動で、しきりに教養だの文化だのと求めながら、わたしたちは必要なだけの真面目さで今日の文化性について吟味していないように思う。きょうの現実に生きるわたしたちの感情には、ひと握りの人たちが教育をうけて来た外国の文化をほめて日本の・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・ 校長だの教師だの団体の指導者だのというひとは、当分の流行に対してよく吟味検討してみる必要がある。自分たちの思いつきに対してひろい実際の視野から再考してみる必要がある。対外的の意味で何かやらなければならないという場合、とりつきやすいのは・・・ 宮本百合子 「女の行進」
・・・それは要するにその点の再吟味であり、散文精神が今日の文学の受動性の枠づけとならぬよう、文学のリアリティーを風俗小説の範囲にとじこめぬよう、そのことが論ぜられたのであったと思われる。 この二三年来、各作家はめいめいの個人の生きかたとい・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・ 阿部一族の死骸は井出の口に引き出して、吟味せられた。白川で一人一人の創を洗ってみたとき、柄本又七郎の槍に胸板をつき抜かれた弥五兵衛の創は、誰の受けた創よりも立派であったので、又七郎はいよいよ面目を施した。大正二年一月・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫