・・・というお便りに接して、胸の障子が一斉にからりと取り払われ、一陣の涼風が颯っと吹き抜ける感じがした。 うれしかった。よく言ってくれたと思った。大出来の言葉だと思った。戦地へ行っているたくさんの友人たちから、いろいろと、もったいないお便りを・・・ 太宰治 「散華」
・・・これは伊那盆地から松本平へ吹き抜ける風の流線がこの谷に集約され、従って異常な高速度を生じたためと思われた。こんな谷の斜面の突端にでも建てたのでは規準様式の建築でも全く無難であるかどうか疑わしいと思われた。 地震による山崩れは勿論、颱風の・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・夕食後風呂を浴びて無帽の浴衣がけで神田上野あたりの大通りを吹き抜ける涼風に吹かれることを考えると、暑い汽車に乗って暑い夕なぎをわざわざ追いかけて海岸などへ出かける気になりかねるのである。 もっとも、東京でも蒸し暑い夜の続く年もある。二十・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
出典:青空文庫