・・・西、両国、東、小柳と呼ぶ呼出し奴から行司までを皆一人で勤め、それから西東の相撲の手を代り代りに使い分け、果は真裸体のままでズドンと土の上に転る。しかしこれは間もなく警察から裸体になる事を禁じられて、それなり縁日には来なくなったらしい。・・・ 永井荷風 「伝通院」
・・・無論描かれる波の数は無限無数で、その一波一波の長短も高低も千差万別でありましょうが、やはり甲の波が乙の波を呼出し、乙の波がまた丙の波を誘い出して順次に推移しなければならない。一言にして云えば開化の推移はどうしても内発的でなければ嘘だと申上げ・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・よしよし、一つ山男を呼び出して、聞いてみよう。」 そこで工芸学校の先生は、町の紫紺染研究会の人達と相談して、九月六日の午后六時から、内丸西洋軒で山男の招待会をすることにきめました。そこで工芸学校の先生は、山男へ宛てて上手な手紙を書きまし・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・署長もすっかり怒ってしまいある朝役所へ出るとすぐいきなりバキチを呼び出して斯う申し渡したと云います。バキチ、きさまもだめなやつだ、よくよくだめなやつなんだ。もう少し見所があると思ったのに牛につっかかれたくらいで職務も忘れて遁げるなんてもう今・・・ 宮沢賢治 「バキチの仕事」
・・・「なぜわたくしより前にデストゥパーゴを呼び出してくださらんのです。誰が考えてもファゼーロの居ないのはデストゥパーゴのしわざです。まさか殺しはしますまいが。」「デストゥパーゴ氏は居らん。」 わたくしはどきっとしました。ああファゼー・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・何心なくひろって見たら、どうだろう、それはインガからドミトリーへあてた呼び出しであった。 ああ、この頃のドミトリーの変りようはどうだろう。元は、何でも話し一緒に笑いした彼が、まるであかの他人みたいな目つきで自分を見る。黙っている。その原・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・ 尺八上手の男が小夜に釣られて行ったあげく、女の情夫の死骸――しかも現在自分に呼び出しをかけた女の手にかかって死んだ男の死骸をかたづけさせられ様とは、そこまで行かなければ誰も思うものではない。 只景気のいい人の顎をとかせる前題で、最・・・ 宮本百合子 「紅葉山人と一葉女史」
・・・ 留置場ではそろそろ寝仕度にかかろうという時刻、特高が呼出したと思ったら、中川が来ている。当直だけのこっているガランとした高等係室の奥の入口のところに膝を組んでかけ、煙草をふかしていたが、自分が緒のゆるいアンペラ草履をはいて入って行くな・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ この日酉の下刻に町奉行筒井伊賀守政憲が九郎右衛門等三人を呼び出した。酒井家からは目附、下目附、足軽小頭に足軽を添えて、乗物に乗った二人と徒歩の文吉とを警固した。三人が筒井政憲の直の取調を受けて下がったのは戌の下刻であった。 十六日・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・と大声で呼び出した。 勘次は秋三に逢いたくはなかった。「安次か、えらく年寄ったやないか。」と彼は安次の呼び声を遮った。「うん、こう鼻たれるようになったらもうあかん。帰れたもんやないけれどさ。とうとうやられてのう。心臓や。お前医者・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫