・・・只過ぎて行く瞬間の呼声に、くらまされなければ救われる。本道に即いて行ければ充分の感謝である。私共が努力しなければならない事は、今年やって来年になれば如何うでもいい事ではない筈なのだ。私共の魂に吹き込まれて生れて来たものが其を命じ、その命令の・・・ 宮本百合子 「一粒の粟」
・・・こうして見ると、軍需工業の景気の呼声が高い割に、この職業別でラジオ増大率の低いことも何か納得出来る気がする。重工業の大工場は今更ラジオとさわぎはしないのであるし、景気の煽りで夜業しているような民間小工場では、ラジオをきいている暇もない、であ・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
・・・ 網目へ両手の指三本引かけて鼻をおっつけたまま子供には呼声が聞えもしない。山高をかぶった父親が小戻りして来た。 ――ジョン! ぎゅっと子供の手首を引っぱって網からはがした。彼の背広の襟の折りかえしが糸になっていた。 午後・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫