・・・このひとたちが、一等をとったって二等をとったって、世間はそれにほとんど興味を感じないのに、それでも生命懸けで、ラストヘビーなんかやっているのです。別に、この駅伝競争に依って、所謂文化国家を建設しようという理想を持っているわけでもないでしょう・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・上衣の胴着の下端の環が小舟の真中に腰を入れる穴の円枠にぴったり嵌まって海水が舟中へ這入らないようにしてあるのは巧妙である。命懸けの智恵の産物である。 これなども見れば見るだけ利口になる映画であろう。 二 ロス対マクラー・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・発動機船もなく天気予報の無線電信などもなかった時代に百マイルも沖へ出ての鮪漁は全くの命懸けの仕事であったに相違ない。それはとにかく、この男の子が鳥目で夜になると視力が無くなるというので、「黒チヌ」という魚の生き胆を主婦が方々から貰って来ては・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
・・・ さあ、オツベルは命懸けだ。パイプを右手にもち直し、度胸を据えて斯う云った。「どうだい、此処は面白いかい。」「面白いねえ。」象がからだを斜めにして、眼を細くして返事した。「ずうっとこっちに居たらどうだい。」 百姓どもはは・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
出典:青空文庫