・・・だろうということになったが、こんな和文漢訳の問題が出ればどこの学校の受験者だって落第するにきまっている。 通信部は、日暮れ近くなって閉じた。あのいつもの銀行員が来て月謝を取扱う小さな窓のほうでも、上原君や岩佐君やその他の卒業生諸君が、執・・・ 芥川竜之介 「水の三日」
・・・語学の勉強と称して、和文対訳のドイルのものを買って来て、和文のところばかり読んでいる。きょうだい中で、母のことを心配しているのは自分だけだと、ひそかに悲壮の感に打たれている。 父は、五年まえに死んでいる。けれども、くらしの不安はない。要・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・語学の勉強と称して、和文対訳のドイルのものを買って来て、和文のところばかり読んでいる。きょうだい中で、家のことを心配しているのは自分だけだと、ひそかに悲壮の感に打たれている。―― 以上が、その短篇小説の冒頭の文章であって、それから、ささ・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・遊芸和文三十一文字などの勉強を以て女子唯一の教育と思うは大なる間違いなる可し。余曾て言えることあり。男子の心は元禄武士の如くして其芸能は小吏の如くなる可しと。今この語法に従い女子に向て所望すれば、起居挙動の高尚優美にして多芸なるは御殿女中の・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・但し今の世間に女学と言えば、専ら古き和文を学び三十一文字の歌を詠じて能事終るとする者なきに非ず。古文古歌固より高尚にして妙味ある可しと雖も、之を弄ぶは唯是れ一種の行楽事にして、直に取て以て人生居家の実際に利用す可らず。之を喩えば音楽、茶の湯・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 当時の和文なるものは多く擬古文の類にして見るべきなかりしも、擬古ということはあるいは蕪村をして古語を用い古代の有様を詠ぜしめたる原因となりしかも知らず。しかして蕪村はこの材料を古物語等より取りしと覚ゆ。 蕪村が最も多く時代の影響を・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・早く吸収したクリスチャン出であったのだけれども、自然を描写する場合になると、漢文脈の熟語、形容詞をつかって、こんにちの読者にはふり仮名なしにはよめない麗句で朝日ののぼる姿を描き、あるいは、余情綿々たる和文調で草木の美を叙し、しかも根本を貫い・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・用語も、和文脈から漢詩の様式を思い浮ばせる形式に推移して来る。「常盤樹」にしろさらに「鼠をあわれむ」「炉辺雑興」「労働雑詠」等に到って、この詩人が、小諸の農村生活の日常に結びつくことで、こんなに自然を観る態度が異って来たかとおどろくばかりの・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
出典:青空文庫